対面 ページ7
鬼に魅入られた憐れな男かとも思ったが一目見て気がついた
この少年にはそう言ったものが見えないのだ
そしてそれは、鬼である女も同じだった
少年は一度木の陰に隠れ、石を隊員に投げると上へと斧を放り投げた
(あのお人は……)
ちらりと見えた左耳の耳飾りに動揺が生まれたのも束の間、音もなく崖を滑り降りた
感情に任せ斧を振る素振りを見せた少年に隊員が柄で背中を強く打てば彼はどさりと地面に倒れる
斧がないことに気がついた隊員が宙を見上げた途端、迫りくる斧の軌道が番傘によって逸れ彼の後ろの木へと刺さった
『おや。手助けはいらへんかったみたいやなあ』
くすり、雪景色に混ざって立つ巫女服姿の女に男は一瞬、彼女も気がつかない程の速さで目を見開いた
その驚きにより緩まった力を突くのは鬼にとっては簡単でもあった
男に拘束されていた鬼がその腕から抜け出すと地面にひれ伏した少年へと走る
『待ちんさい』
静止を呼びかける声は鬼に、ではなく刀へと手をかけた男へと向けられた
反射的に動きを止めた男が眉を寄せ女を睨むが彼女は鬼へと翡翠色の双眸を細めた
男は驚いた。何故ならば彼女の視線の先の鬼が飢餓状態であるのに兄である少年を自分から守ろうと立ち塞がっているのだから
異例の事態に呆然とする暇もなく、鬼の少女が男へと襲いかかる
少年を守る庇護行動に男は抜きかけた刃を鞘に納め手刀を食らわす
気絶した鬼を暫し見つめる男の刃に見えた悪鬼滅殺と彫られた刀身からして、この男が探し求めていた人物で間違いないと遅く確信した
『あんさんが冨岡義勇はんどすか?』
鬼の首を撥ねるどころか気絶させて放置している男へと問う
対する冨岡と呼ばれた彼は警戒心を解くつもりはないのか変わらず睨んでくる
美丈夫は睨んでいても美しいのやなあと能天気にも程がある感想を抱いていたのは彼女の肝が座っているからだろう
『そう警戒しなさんな。うちもあんさんと同じ鬼殺隊でありんす』
「………何故俺の名前を」
漸く開かれた重たい口に上機嫌に袖を揺らす女に冨岡は聞きたいことが山積みだった
けれども口下手な彼から発せられたのはその一言
それを汲んだのか寂しげに置かれた番傘を拾い上げくるりと傘を回す
傘に姿を隠された女が巫女服から隊服へと姿を変えたものだからさすがの仏頂面も少し解れた
『詳しい話は彼らの処遇を聞いてから、でどうどすか?』
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蜜柑(プロフ) - あいうえおさん» 誤字指摘ありがとうございます…まさか主人公である彼の名前を間違えるとは申し訳ありません…… (2019年6月24日 23時) (レス) id: f7e2178304 (このIDを非表示/違反報告)
あいうえお - すいません。「炭次郎」じゃなくて「炭治郎」ですよ。 (2019年6月24日 22時) (レス) id: d4ea0d195c (このIDを非表示/違反報告)
蜜柑(プロフ) - やよいさん» コメントありがとうございます…!やよいさんの作品も閲覧させていただいているので作者様からそう言ってもらえて嬉しいです! (2019年5月20日 17時) (レス) id: f7e2178304 (このIDを非表示/違反報告)
やよい(プロフ) - はあ、、もう面白すぎです。。文才神がかってます。。大好きです。 (2019年5月20日 0時) (レス) id: 7302d83944 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蜜柑 | 作成日時:2019年5月6日 10時