辿り着いた先は ページ49
二人が辿り着いた先は、産屋敷邸と何ら変わらぬほどの広さを有した屋敷だった
藤の花に囲われひっそりと聳え立つ屋敷は広さと相まって賑やかな声を漏らす
聞いたところでは童のものが大半だろうか
「あ、幸村様!おかえりなさい」
門を潜った途端、庭先で竹刀を振っていた童が駆け寄るとそれに倣い次々と子供が集まってくる
幸村はそれに微笑みつつも寄ってきた童たちの頭を一撫でし、膝を曲げた
「出迎えありがとう。…しかし、鍛練を抜け出すのはいけないな」
「うっ」
「だっ、だって幸村様が見えたから……」
「幸村様のせいにするんじゃないよ全く」
不意に子供たちの背後から現れた女に子供たちの肩が跳ね上がるが時既に遅し、子供たちの頭に容赦なく落とされた拳
目の前で痛みに悶える子供たちの姿に冨岡と幸村は暫し呆然としていた
「ほら、道場に戻りな。先輩の時間を無駄にさせんじゃないよ」
「はーい……」
幸村を名残惜しく想いつつも子供たちは庭を抜け奥の座敷へと歩を進めていった
そこで冨岡は漸く気の強い女が自分を連れ出した隠であると気がついた
あの時は意識が薄れて顔がよく見えなかったものの、改めて見ると幼い外見をしている
「すまないな。いつも私が留守の間を任せて」
「いえいえ。あたしは幸村様の忍ですから、これくらいの世話はどうってことありませんよ」
膝を伸ばし起き上がった幸村から背負っていた弓袋を女が受け取り布を解いてゆく
取り出されたのは弓、ではなく手入れの届いた槍だ
(…何故弓を背負っているのかと思えば、そういうことか)
幸村の腰に挿された日輪刀は使った痕跡はあるものの使い古されているとは思えない新しさがあった
最早刀、とも言えない槍だがあれが彼の使用する得物なのだろう
「人払いは済ませてあります」
「そうか。では冨岡殿、お待たせしてすみません。今、部屋へと案内します」
「……ああ」
槍を受け取った女の横を抜け玄関へ通されればそのまま冨岡は幸村の背を追う
奥へ奥へと向かえば活力に満ちた空間から徐々に閑散とした静けさが漂い始める
不気味さ、ではない。不思議な、神聖な雰囲気が蔓延していた
やがて一つの障子の前で脚を止めると幸村は一度だけ冨岡を振り返った
「その前に、ひとつ。どうか、今日見たことは決して言外せぬようお願いします」
「わかった」
冨岡が口の堅い御仁であるとは薄々知っているが、念には念を
幸村は微かに口許を緩めると静かに障子へと手をかけた
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蜜柑(プロフ) - あいうえおさん» 誤字指摘ありがとうございます…まさか主人公である彼の名前を間違えるとは申し訳ありません…… (2019年6月24日 23時) (
レス) id: f7e2178304 (このIDを非表示/違反報告)
あいうえお - すいません。「炭次郎」じゃなくて「炭治郎」ですよ。 (2019年6月24日 22時) (レス) id: d4ea0d195c (このIDを非表示/違反報告)
蜜柑(プロフ) - やよいさん» コメントありがとうございます…!やよいさんの作品も閲覧させていただいているので作者様からそう言ってもらえて嬉しいです! (2019年5月20日 17時) (レス) id: f7e2178304 (このIDを非表示/違反報告)
やよい(プロフ) - はあ、、もう面白すぎです。。文才神がかってます。。大好きです。 (2019年5月20日 0時) (レス) id: 7302d83944 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：蜜柑 | 作成日時：2019年5月6日 10時
