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終わりなき闘い ページ43

深く息を吐いて呼吸を整えた女の目つきが細められた。それだけでこの場に蔓延した空気が冷たさを含み鋭いものへと変わっていく

既に乾いた血液は体の至るところを染め不気味ささえも滲ませる
やがて、冨岡を振り返ったAは静かに笑った

その笑みに覚えはあった。
自分を守る為に死んだ姉の最後に見せた顔と類似していたからだ

「…どうした」

かろうじて立ってはいるが出血量から足元の感覚がない
それを隠しながら問いかけた冨岡に気づいているのだろうか。Aがその体を支えた

『その体では刀を振ることも難しいかと』

「問題ない、俺は」

『冨岡はん』

肩へと置かれた手は冷たく、小さい
しかしそこに怯えや恐怖といった感情は一切見えないのだ

それは、きっと覚悟を決めたからだと察するのに時間はかからない
何をするつもりなのか、口を開くよりも先にぐらりと視界が傾いた

「ッ、A!」

渾身の体当たりをかました彼女が目を見開いた気がした
崖から落ちて行く最中、その名を叫ぶも曖昧に微笑んで女は叫んだ

『幸村!!』

この高さから落ちればただでは済まない。冨岡を受け止める何かが必要だった

幸いなことに、崖下から微かにだが承知と砂利を踏む音が聞こえてきていた
きっと大丈夫だ。Aは一人胸を撫で下ろした

「……ふむ。一人を逃がすために突き落とすか。だが何のために?一人で儂の相手が勤まるとも?」

『ええ…勤まります。なんせ、これから私とあんさんは共寝といきましょ』

風が雲を引き連れてくるとその眩い光を放つ月を隠してしまう
暗くなった視界に突如として映えるは紅い華

ふと、鬼の頭を過ったのは紅い華に染められた地平線の果て
そこで新月はこの光景に覚えがあることを漸く思い出した

そうだ、この忌まわしき華は

『次こそは、必ずあんさんを倒してみせましょう』

「くそっ、貴様!!また儂を封じるつもりか…!」

絡み付く彼岸花に目もくれず手元の刀を女の体へと投げつけるが刀が体を貫通しても女が倒れることはなかった

痛みに顔を歪めるが、Aは鬼から目を逸らさない

『よう眠っとぉくれやす』

鬼の体が華で埋め尽くされると鬼の気配は霞みのように消えていく
今は駄目でも次ならば。一回殺せればそれでいいのだ

ふっと息を吐いた女は今度こそ力なく膝から地へ倒れ込む
朝陽がやっと顔を出してきたところで眠くなる意識のなか、冨岡にこんな姿を見せなくて良かったとひとりのバケモノが笑っていた

六文銭の男→←転げた先に絶望



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蜜柑(プロフ) - あいうえおさん» 誤字指摘ありがとうございます…まさか主人公である彼の名前を間違えるとは申し訳ありません…… (2019年6月24日 23時) (レス) id: f7e2178304 (このIDを非表示/違反報告)
あいうえお - すいません。「炭次郎」じゃなくて「炭治郎」ですよ。 (2019年6月24日 22時) (レス) id: d4ea0d195c (このIDを非表示/違反報告)
蜜柑(プロフ) - やよいさん» コメントありがとうございます…!やよいさんの作品も閲覧させていただいているので作者様からそう言ってもらえて嬉しいです! (2019年5月20日 17時) (レス) id: f7e2178304 (このIDを非表示/違反報告)
やよい(プロフ) - はあ、、もう面白すぎです。。文才神がかってます。。大好きです。 (2019年5月20日 0時) (レス) id: 7302d83944 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:蜜柑 | 作成日時:2019年5月6日 10時

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