他に通ずるは信仰か ページ22
話はここまでだと長いようで短い時間、正座していた足を動かすとふと、何かを思い出したように産屋敷が冨岡に静止の言葉をかける
「義勇は少し残ってくれないかな」
「……」
はて、何をやらかしたのか。
動きを止めた冨岡と同様にAが一瞬冨岡を見やるが当の本人が分からぬならば彼女にも分かる筈がない
居住まいを正した彼に向き直る産屋敷の様子から早々に下がるべきだと判断したAは失礼しましたと襖を開け和室を後にした
「………待て」
二人の会話は聞かれては宜しくないものであろうと考え、一先ず一刻も早く立ち去らなければと廊下を進んだ先に呼び止められる
振り返った先は日溜まりの廊下に佇む数珠を擦らせた大男
『ああ。これはまた懐かしゅうございますなあ、悲鳴嶼はん』
「よく、生きていたな…」
頬を流れ落ちる涙は止まらない。それは悲しいのか将又Aとの対面を喜んでいるのか些か判断に迷う
が、女は特に気にした様子もなく悲鳴嶼の側へと歩み寄る
『あれからどないほど月日が流れとるのか、正直なところよお分かっとりまへん』
「五年だ」
『五年……それなりに時間を喰らってしもうたようどすなあ』
二人の脳裏を過るは共通の過去の記憶
柱の中でも古残の域に達する彼等は幾度もの窮地を掻い潜って今日を生きる
だが、一度だけ。少なからず悲鳴嶼が共有している記憶では目の前の女は一度死間際まで追いやられたことがあった
あの時の惨状を知るものは誰もが恐れ戦いたものだ
『悲鳴嶼はんは…変わってしまわりましたわあ。今では大きくなってしもうて…なんや感慨深い』
「…時の流れは速い。巡桜、君は言葉のとおり変わっていないようだな…」
『あら。口説き文句が上手いこと』
悲鳴嶼にそのつもりがないのは百も承知だが、敢えてAは違う意味で捉えた振りを興じる
それは悲鳴嶼も長年の付き合いから分かっているのだろう。特に訂正させることもなく、代わりに感情が交ざった複雑な顔で南無阿彌陀仏と念仏を唱えだした
『ちょっと。うちを亡霊扱いしんといてくださいな』
「そのつもりはなかったが…」
噛み合っているのかいないのか。他人から見れば不思議な組み合わせだと思われるが当人たちはこの空間が嫌いではなかった
それでいいじゃないか。他人の評価なんて興味もない
これが唯一二人の一致した思い
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蜜柑(プロフ) - あいうえおさん» 誤字指摘ありがとうございます…まさか主人公である彼の名前を間違えるとは申し訳ありません…… (2019年6月24日 23時) (
レス) id: f7e2178304 (このIDを非表示/違反報告)
あいうえお - すいません。「炭次郎」じゃなくて「炭治郎」ですよ。 (2019年6月24日 22時) (レス) id: d4ea0d195c (このIDを非表示/違反報告)
蜜柑(プロフ) - やよいさん» コメントありがとうございます…!やよいさんの作品も閲覧させていただいているので作者様からそう言ってもらえて嬉しいです! (2019年5月20日 17時) (レス) id: f7e2178304 (このIDを非表示/違反報告)
やよい(プロフ) - はあ、、もう面白すぎです。。文才神がかってます。。大好きです。 (2019年5月20日 0時) (レス) id: 7302d83944 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：蜜柑 | 作成日時：2019年5月6日 10時
