相反する意思 ページ19
鞘へ日輪刀を納めた女の肩目掛けて鴉が突進するような速さで冨岡の背後から飛んできた
さして咎める訳でもなく乱暴に己の肩へ乗った鴉の頭を撫でると大きな翡翠は此方を向く
『おや。冨岡はんやありまへんか』
彼を瞳に捉えるとAは鴉を撫でる手を止めて呼んでくれたん?と鴉に問う
問われた鴉は自慢げにカア、と鳴いて胸を張っている
『本来ならうちが冨岡はんの下へ向かわな駄目やったんやけど…生憎、隠れんぼの鬼を任されてしもうてなあ』
「あの鬼は全てお前が片したのか」
『そうどす。ここいら一帯は鬼にとって身を隠すに最適な場所、いくら群で行動せん鬼やとしても自然と寄ってしまうらしくてねえ』
首を切り離された首下の鬼の体へ歩み寄ると温もりも感じられない冷えた掌を両手でAは包む
相手はこれまで人を喰って永らえていた鬼だというのに、そこまで慈悲を掛ける意味はないだろうと訝しげな冨岡の心中を察したのかAが口開く
『喩え人を喰ろうても元は人。大半は望んで鬼になったわけやありまへん』
「望もうが望まなかろうが鬼に情けをかけるな。人を喰った業は許されることではない」
『………』
風と共に風化した鬼の体がAを取り巻く桜と流れてゆく
顰めっ面の冨岡とは反対に彼女の表情は穏やかだ
人には人の事情がある。それは冨岡にもAにも当て嵌る
鬼を憎もうが憐れもうが勝手。だが柱として鬼殺隊を支える者が鬼に甘いとは話は別
言い方は手厳しいが、要するにAの思考は立場上よろしくないと咎めているだけなのだ
『…確かに、罪の無い人を喰ろうた鬼の諸行は許されまへん。そして、慈悲を掛ける必要もまたない』
一区切りと言葉を止めたAが珍しく笑みを称えることなく冨岡を真っ直ぐに見る
鮮やかな翡翠が確固たる意思を宿し、反論の余地を与えないと言いたげだ
『けんど諸行を悔いた御仁に掛ける情けがないとはうちは思いまへん。それは人であっても、鬼であっても』
鬼も人も対等に、言外にそう認識していると口にする女にこれ以上は何を言っても無駄だと冨岡は一人口を噤んだ
穏やかな反面、以外にも意固地な面を持つ女には驚かされてばかりである。と内心彼は一人ごちていた
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蜜柑(プロフ) - あいうえおさん» 誤字指摘ありがとうございます…まさか主人公である彼の名前を間違えるとは申し訳ありません…… (2019年6月24日 23時) (レス) id: f7e2178304 (このIDを非表示/違反報告)
あいうえお - すいません。「炭次郎」じゃなくて「炭治郎」ですよ。 (2019年6月24日 22時) (レス) id: d4ea0d195c (このIDを非表示/違反報告)
蜜柑(プロフ) - やよいさん» コメントありがとうございます…!やよいさんの作品も閲覧させていただいているので作者様からそう言ってもらえて嬉しいです! (2019年5月20日 17時) (レス) id: f7e2178304 (このIDを非表示/違反報告)
やよい(プロフ) - はあ、、もう面白すぎです。。文才神がかってます。。大好きです。 (2019年5月20日 0時) (レス) id: 7302d83944 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蜜柑 | 作成日時:2019年5月6日 10時