いざ、向かわん ページ13
拝啓、お館はん
さらさらと紙面へ立ちながら器用に筆を滑らせ書状を完成させるとAは傍らに鎮座していた鴉の足へ括りつける
まだ乾いていないのではと鴉は言いたげに彼女を見上げるが主人は素知らぬ顔だ
溜め息なのかそれとも気分だったのか。一鳴きすれば屋敷へと飛んでいく
『……はて、これからどうなっていくのやら』
鴉の後ろ姿を眺めながら空の青さに目を細めた
炭治郎、と言った少年は家族の埋葬がしたいと禰豆子を連れ家へと一度戻って行った
家族の埋葬を手伝ってやりたい気持ちもあったが、赤の他人が家族という輪に入るのは申し訳がない気もした
いつになっても構わないから、妹を背負えるものを用意して山の麓においでと告げAは約束どおり麓の木に凭れ待つ
もうすぐ陽が沈み暗闇が日本を支配する時間がやってくる。そう、鬼の活動する時間帯の夜
(鬼が出んとも限らん。早めに佐霧山へ向かわな)
幸いにも今は雪が降ることもなく、数刻前に積もった雪すらも溶かすほどの暖かな気候
雪に足をとられることもなく山を登れば間に合うだろう
「すみません、待たせてしまって」
程なくして竹で作られた篭に布を被せたそれを背負った炭治郎が小走りでAの下へと駆け寄ってきた
篭を揺らさぬような慎重な走りは中にいる妹を気遣ったからであろう
『そない待ってまへんで。むしろもう良かったんどすか?』
「……はい。長くいればいるほど、離れがたくなってしまいますから」
愛しい我が家との別れはたった数刻では振り切れるものではない。それを理解していたからこそ炭治郎は埋葬を手早く済ませてきた
まだ童とも呼べる少年がここまで決意を固めることは今の世では珍しくない。実際にAは何人もの子供たちが家族を鬼に殺され、復讐を誓う姿を見ていた
(泰平の世が続いても、哀しみは無うならへんなんてふざけた話やこと)
時代は巡り、戦国の世が遠ざかった大正の世でさえも、死と隣り合わせの日常を生きねばならぬ
何処か遠い目で微笑みを称えるAに炭治郎はその女が哀しみの匂いを纏わせていると感知した
『さあて、せやったら早う行きましょ?鱗滝はんを待たせてまうのんは申し訳あらへん』
空から恵みの雨も、冬を飾る雪も降っていないにも関わらずAは赤い番傘を開いて歩き出す
匂いの原因を指摘されるのを避けるように歩き出した背中へハッとして炭治郎が後を追う
佐霧山へといざ、向かわん
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蜜柑(プロフ) - あいうえおさん» 誤字指摘ありがとうございます…まさか主人公である彼の名前を間違えるとは申し訳ありません…… (2019年6月24日 23時) (レス) id: f7e2178304 (このIDを非表示/違反報告)
あいうえお - すいません。「炭次郎」じゃなくて「炭治郎」ですよ。 (2019年6月24日 22時) (レス) id: d4ea0d195c (このIDを非表示/違反報告)
蜜柑(プロフ) - やよいさん» コメントありがとうございます…!やよいさんの作品も閲覧させていただいているので作者様からそう言ってもらえて嬉しいです! (2019年5月20日 17時) (レス) id: f7e2178304 (このIDを非表示/違反報告)
やよい(プロフ) - はあ、、もう面白すぎです。。文才神がかってます。。大好きです。 (2019年5月20日 0時) (レス) id: 7302d83944 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蜜柑 | 作成日時:2019年5月6日 10時