名乗りは不要 ページ12
さすがは水柱。その冷たさには尊敬の念を覚えてしまうと他人事のように考えながらAは目の前で妹を抱き締め続ける少年を見やった
(やはりよう似とる。炭十郎…いや炭吉。そうか、あの子らの子孫かえ)
両耳の下でゆらゆら揺れる耳飾り。この子ならば、恐らく
「あの……」
戸惑いを滲ませた声に思慮深く回る脳の働きが止まる
ぼんやりとしていたAを見兼ねて話しかけたのだろう。Aは立ち尽くしていたことを詫びた
『初めまして。うちの名前は…』
「阿国さん、ですよね?」
『……ああ、そうどす』
正直に答えるのも面倒に思ったのかAは多少の間を空けてにっこりと音をたてるほどに笑う
出雲の阿国として名を轟かせる女の本名を知るものは数知れず
今は名前を名乗る時ではないと判断しただけだろう……多分
「あの、禰豆子は…妹は」
『先刻も言うたとおり、うちらが娘はんを殺す真似はあらしまへん。あくまでもうちと冨岡はんだけ』
鬼の危険性を目の当たりにしているからか少年は不安げに禰豆子へ視線を落とす
親を殺され残された妹は鬼となる、あまりにも酷く悲しい話だ
しかし、いつまでも悲しみに明け暮れる暇はない。早く動かなければいつ、鬼殺隊の隊員と遭遇するかも分からぬ
『一先ず、山を下りて娘はんが陽に当たらんようにせなあきまへん』
「着いてきてくれるんですか?」
『佐霧山まで。ほな、行きましょ』
開かれた番傘を腕を回して肩へと担ぐ女の独特な匂いに少年は依然として眠る禰豆子を起こしつつ内心で不思議な感情を抱く
鼻の良い彼でさえも匂わぬ感情の起伏
脳裏にちらついたAによく似た女が眉を下げて笑む光景
『どないしたん?』
「あ……山を下りる前に、一つだけ」
閃光のように過った光景に首を振り舟を漕ぐ禰豆子の手を握り立たせて少年は歩き出した女へ頼み事を口にする
女は微笑みを崩すことなく、唯静かに頷いた
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蜜柑(プロフ) - あいうえおさん» 誤字指摘ありがとうございます…まさか主人公である彼の名前を間違えるとは申し訳ありません…… (2019年6月24日 23時) (レス) id: f7e2178304 (このIDを非表示/違反報告)
あいうえお - すいません。「炭次郎」じゃなくて「炭治郎」ですよ。 (2019年6月24日 22時) (レス) id: d4ea0d195c (このIDを非表示/違反報告)
蜜柑(プロフ) - やよいさん» コメントありがとうございます…!やよいさんの作品も閲覧させていただいているので作者様からそう言ってもらえて嬉しいです! (2019年5月20日 17時) (レス) id: f7e2178304 (このIDを非表示/違反報告)
やよい(プロフ) - はあ、、もう面白すぎです。。文才神がかってます。。大好きです。 (2019年5月20日 0時) (レス) id: 7302d83944 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蜜柑 | 作成日時:2019年5月6日 10時