覚悟 ページ11
『鱗滝はんにはあんさんから書状を出してくれまへんか？お館はんの方は任せとぉくれやす』
今まで頭上の木の枝に留まっていた鴉がひらりと頭上を回り、Aの肩へと舞い降りる
主に似た大きな眼は片方だけが変色し、眼球自体が青い
青い目の鴉は雪の上に寝そべる二人を一見すると小さくカア。と鳴く
優しい手つきでその頭を撫でる女に鴉はされるがまま
賢そうだと思いながらも冨岡は彼女の提案を呑むように頷く
『うちの報告だけでは済まされんでしょう。大方、お館はんの下へ近々呼び出しを食らうやろうなあ』
「……そうだろうな」
『最悪、隊律違反により腹を斬る羽目になってもうたり』
物騒な言葉に相反した揶揄するように口の端をつり上げたAだが的は射ている発言だ
自分はこの鬼の娘が仮にも人を喰らう事態に陥ったならば、腹を切る覚悟はある
けれど、偶然と言えど隊律違反の片棒を担いだ彼女はどうだろうか
「後悔しているか」
今此処を去ればその責任を背負う必要はない。又もや言葉は足りないが冨岡の本質をそれとなく理解したAには伝わっていた
『いいえ、まったくしとりません』
冨岡一人に責任を問わせる事はしない。きっかけは偶然にせよ、禰豆子を生かす判断は自分で下したのだ
自分だって腹を切る覚悟も、首を差し出す覚悟だってある。懐から取り出した扇子を一瞬にして開き口元へと宛がう
ひとつひとつの所作に品があり優美なものだ
舞を踊る女人としては何一つ不備のない完璧なこと
「うっ……」
二人が互いの覚悟を確めていれば気絶していた少年が目を覚ました
ボロボロと涙で頬を濡らす彼の片手はたった一人の兄妹の着物を強く握っていた
「起きたか」
冨岡が声をかければ即座に少年は妹を守るように眠る彼女を抱き締める
妹が殺されるのではないかと必死に庇護する姿にAは好感を抱いた
『そんなに心配せずともうちらはその子を殺す真似はしまへん』
「え………」
「佐霧山の麓に住んでいる鱗滝左近次という老人を訪ねろ。冨岡義勇に言われて来たと言え」
呆然と二人を見上げる少年の双眸には困惑の二文字が浮かぶ
当然の反応だ。殺されかけた手前、人を訪ねろだなんぞ
「今は日が差していないから大丈夫なようだが、妹を太陽の下に連れ出すなよ」
それだけ言って冨岡は木々の間へ消えて行く
去り際、Aの横を通り抜けても彼は何も言葉をかけてくれなかった
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 126人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
蜜柑(プロフ) - あいうえおさん» 誤字指摘ありがとうございます…まさか主人公である彼の名前を間違えるとは申し訳ありません…… (2019年6月24日 23時) (
レス) id: f7e2178304 (このIDを非表示/違反報告)
あいうえお - すいません。「炭次郎」じゃなくて「炭治郎」ですよ。 (2019年6月24日 22時) (レス) id: d4ea0d195c (このIDを非表示/違反報告)
蜜柑(プロフ) - やよいさん» コメントありがとうございます…!やよいさんの作品も閲覧させていただいているので作者様からそう言ってもらえて嬉しいです! (2019年5月20日 17時) (レス) id: f7e2178304 (このIDを非表示/違反報告)
やよい(プロフ) - はあ、、もう面白すぎです。。文才神がかってます。。大好きです。 (2019年5月20日 0時) (レス) id: 7302d83944 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：蜜柑 | 作成日時：2019年5月6日 10時
