序章 ページ1
しんしんと振る雪に持ち前の番傘をくるりと回す女の手は赤く、指先は微かに寒さにより震えている
寒い。一息だけほう、と息を吐くと白い靄となり表れる
美人は何をしても様になる。誰かが言った言葉に確かにと思われる光景だ
そう。彼女の足下に転がる肉塊が赤黒い液体を流し、原物さえも見目つかなくとも、周囲の木々に血飛沫が飛んでいようが
『……まあた一人、出雲へと連れて行かなあかんようや』
女の眼が人だったものから彼女の側にある木に退路を奪われた化物_鬼へと移る
鬼は動けなかった。目の前の女が自身を拘束していないにも関わらず、その場所から動けない
当人でさえも腰を抜かして動けぬ理由に検討がつかなかった
いや、心のどこかでは知っていたのかもしれない
『安心しなさんな。出雲は良いところ、誰もが気に入る場所』
この女。人の気配が全くしないのだ
それはまるで自身と似た、鬼のようなる気配
されどその容貌は華のようなるモノ
矛盾を抱えて歩み寄る女に恐怖を抱いているのは鬼の本能だと一介の鬼には分からぬこと
『よう眠っとぉくれやす』
そっと鬼の目蓋に触れ下ろしてやる女の慈愛に満ちた声に鬼は漸く恐怖から解かれ次いで懐かしい忘れていた記憶を思い起こした
愛しい我が子。鬼により殺された哀れな子
その子を屠った鬼よりも強くなるために鬼となった自分は大層滑稽だというのに、その子は鬼の前で父上と微笑む
「ああ゛……」
季節外れの桜が吹き荒れ子を抱き締める男の体を包む
鬼だった男がその桜の波の向こう側に佇む女へと蚊の鳴く声で口を動かす
聞こえない筈の距離だが、聞こえているとでも言いたげに番傘を回して笑む
夢物語のような光景。桜が鬼を連れ去るとそこには女が一人
鬼に体を喰われた人も、血生臭い匂いもなく一人だけ
『………おやすみなさい』
ちん。番傘の柄と見せかけた刀の鞘へと刀身を納め女は夜空へ舞う桜を見上げる
冬が近づきつつあるからか、今宵の月はやけに澄んで見えた
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蜜柑(プロフ) - あいうえおさん» 誤字指摘ありがとうございます…まさか主人公である彼の名前を間違えるとは申し訳ありません…… (2019年6月24日 23時) (レス) id: f7e2178304 (このIDを非表示/違反報告)
あいうえお - すいません。「炭次郎」じゃなくて「炭治郎」ですよ。 (2019年6月24日 22時) (レス) id: d4ea0d195c (このIDを非表示/違反報告)
蜜柑(プロフ) - やよいさん» コメントありがとうございます…!やよいさんの作品も閲覧させていただいているので作者様からそう言ってもらえて嬉しいです! (2019年5月20日 17時) (レス) id: f7e2178304 (このIDを非表示/違反報告)
やよい(プロフ) - はあ、、もう面白すぎです。。文才神がかってます。。大好きです。 (2019年5月20日 0時) (レス) id: 7302d83944 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蜜柑 | 作成日時:2019年5月6日 10時