夜逃げ ページ30
Aと別れ早くも丑三つ時を迎えた冨岡は月光に照らされた刀をするり、鞘へと収めた
彼の足元に転がるは鬼だったもの。既に首を斬られたことからその姿は消え去り眼下には何も残っていない
あれから、慌ただしくAが店を出ていった後。
冨岡は自身の昼餉の代金を支払おうとしたが、どうやらAが置いていった貨幣に己のものも含まれていたらしく、店主にやんわりと突き返されたのだ
まさか男である自分ではなく女人であるAに支払わせるとは面目もない。せめて詫びの品でも贈るべきかと思うもあれきり女は自身の前へ姿を現さない
(一度鴉を飛ばすべきか……?)
己の隣の警備地区、即ちAの地区との境界に自然と向かっていると不意に幾つもの人影が闇夜に乗じてこそこそと夜道を歩いていた
こんな時間に外を出歩くとは鬼に喰われたいのかと僅かに冨岡の眉が寄せられる
見たところ千鳥足には遠い確かな足取りをしているので酔っ払いの類いでないのは確実だ
「おい」
「ひっ!!」
足早に彼らの後を追いその背中に触れるよりも前に声をかけるとまるで幽霊に遭ったかのような顔で冨岡を振り返った
「あ、あ、これには訳が…!」
「ひいい!どうか、命だけは!!」
視界に入れるや否や怯えた様子で膝をつくと一人の男が頭を地面へ擦り付け始めた
所謂土下座だ
なぜ、謝られているのだ。俺は
内心疑問に思いつつも男の後で子供を守るように女がこちらの様子を伺う女の姿に納得した
この一家は俗に言う夜逃げをしようとしているのだと
見れば彼らの荷物は明らかにどこか遠方へと向かうような大きな荷物ばかりだ
恐らくは自身の経営する店が潰れ、借金取に追われる前に街を出ようとしている…のだろうな
「……夜道は危険だ。街を発つならせめて明け方にしろ」
「……え?」
「あたしらを連れ戻そうとしないんですか……?」
夫婦二人は冨岡を借金取と勘違いしているようで彼は違うと首を振った
「俺は借金取ではない」
「そ、そうなんですか……」
「けど……夜逃げするなら今日、神隠し森を通るべきだって」
神隠し森、それはどの柱の警備地区に存在する鬼の住まう森の名前だった
そしてAの管轄は主にそこが主になっている
__冨岡はんもうちの管轄内の森には入らんように
去り際の翡翠の真剣な眼差しに嫌な予感がした
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蜜柑(プロフ) - あいうえおさん» 誤字指摘ありがとうございます…まさか主人公である彼の名前を間違えるとは申し訳ありません…… (2019年6月24日 23時) (レス) id: f7e2178304 (このIDを非表示/違反報告)
あいうえお - すいません。「炭次郎」じゃなくて「炭治郎」ですよ。 (2019年6月24日 22時) (レス) id: d4ea0d195c (このIDを非表示/違反報告)
蜜柑(プロフ) - やよいさん» コメントありがとうございます…!やよいさんの作品も閲覧させていただいているので作者様からそう言ってもらえて嬉しいです! (2019年5月20日 17時) (レス) id: f7e2178304 (このIDを非表示/違反報告)
やよい(プロフ) - はあ、、もう面白すぎです。。文才神がかってます。。大好きです。 (2019年5月20日 0時) (レス) id: 7302d83944 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蜜柑 | 作成日時:2019年5月6日 10時