恋を焦がして何となる ページ25
何度云っても学習しない私に乱歩さんはいい加減愛想を尽かすのではないかとビクビクしていたが、彼にそんな様子はない
その事実に一番私が疑問に思っているが聞いた所ではぐらかされるのが落ちだ
「それは、君だって同じだろう?」
『同じ?』
屋上。容赦なく叱られた後に行けと云われた先には太宰さんが空を見上げていて、何と声を掛ければ判らず疑問を問うた
「乱歩さんは、観察眼に長けた世界でも極稀な人物だ。その分、世間の条理から外れていると周囲から認知されることもあるが……」
『それは…まあ、そうですね』
「例え条理に反していようが、君にとっては乱歩さんであることに変わりはないだろう?それと同じなのさ」
成程と理解を示す私は太宰さんの隣に並んで同じように空を見上げてみる
雲一つない晴天だがどこか不穏な気配が漂っている
『太宰さん』
前置きはここまでで良いかとぼんやりと考えた末、やがて彼の名前を呼ぶ
人一人分空いた距離は丁度いい半面、一寸だけ埋めてしまいたくもなる
「なあに?」
名前を呼んだだけにも限らず体ごと向けてくれるものだから律儀な人だと感心する
普段から紳士的だから今更と云えば今更だが
『手、握ってくれてたんですか?』
夢と現実の狭間でずっと声を掛け、手を握っていたのだろう。一週間も眠っていた私の為に
あの悪夢から救ってくれたのは、恐らく後にも先にも太宰さんだけだ
「気づいていたのかい?」
『なんとなく、太宰さんの気配がしたのと…乱歩さんが教えてくれました』
一週間の間で何が起きたのか、手短に述べられてから屋上に送られたのが数分前
これには太宰さんも苦笑を浮かべている
「乱歩さんが、そうか」
『はい。だから…心配かけてすみません』
「全くだよ」
ぺちぺちと頭を叩いてくるものだから横に頭をずらそうとも思ったが、彼なりのお咎めだ
ここは大人しく甘受しておくのが一番
痛いと云いたげな眼差しを送ってみれば意地の悪いことにそっぽを向かれた
「死なない。君のその慢心が何時か身を滅ぼさないか私は怖くて仕方がない」
置いていかれる者の苦しさは互いに知覚済みである
だからこその恐怖。また置いていかれるのではないかと
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蜜柑(プロフ) - かりんとうさん» コメントありがとうございます〜1から読んでもらって書いた本人としても嬉しい限りです…!更新は不定期ですが出来る限り尽力していきたいと思います。これからもよろしければ応援のほどよろしくお願いいたします! (2019年5月6日 12時) (レス) id: f7e2178304 (このIDを非表示/違反報告)
かりんとう(プロフ) - 1から読みました。本当に面白くて面白くて、読み進める手が止まりませんでした笑こんなに素敵な作品があったとは……!これからも更新楽しみにしています!!頑張ってください! (2019年5月6日 12時) (レス) id: f31ecb66db (このIDを非表示/違反報告)
蜜柑(プロフ) - イエさん» コメントありがとうございます…何故だか完結したことになっておりますが続けていきたいと作者本人は思っております…!更新は今停滞気味ですがこれを機に更新していきたいと思います〜… (2019年5月5日 8時) (レス) id: f7e2178304 (このIDを非表示/違反報告)
イエ - お、終わり?面白かったのに…頑張って更新してください!お願いします! (2019年4月29日 23時) (レス) id: e962cbea86 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蜜柑 | 作成日時:2019年1月5日 14時