It barks at the month. ページ44
体に穴を空けても、足を切り落としても再生するこの体にだって苦しみは勿論ある
地面に伏す彼女にだって痛みはあって、その痛みと出血量故に意識を失った
可哀想だと思ってしまうけれどそれは一体誰のこと?彼女か?それとも死ねない体を持つ自分たちのことだろうか
「萩原さん」
「うん?ああ、悪いな芥川。態々手間を掛けさせてしまって」
「いえ、僕にとってこの程度…」
小さく咳を漏らす青年に嘘の皮を張って振り返れば血で汚れた黒獣が視界に映り込んだ
(どうしてこうもAが傷つかなきゃならんのかなァ………)
傷つける側であるオレが云えたことではないが、そう思ってしまうのは仕方がない
オレだって、出来ることならこの子を守ってあげたいのよ
(それが出来たら、きっともうオレ達はオレ達じゃないんだろうな)
理由のある生を辿るオレ達に未来はない。あ、いやまだ希望はある。彼女にはね
「そういや太宰の様子は?あいつ捕まえたんだろ?」
「………」
「相変わらず、か。オレも四年ぶりに会いに行こうかなあ」
芥川の何とも云えぬ様子につい苦笑いが浮かんでしまう
太宰、太宰治。森さんが引き連れてきた頭の回る男
世界を傍観してるのか純粋につまらないのか何処か退屈そうな子供だったなって印象
彼はオレとAの関係を知りたかったのか、将又オレの弱味を握りたかったのか自らAと接触を図った
「一先ず戻ろう。Aを連れ帰らないといけないし、目を離した隙に太宰が脱走してるかもしれん」
彼奴は執着にも似た愛情をAに抱いているし、Aも太宰に気がない訳でもない
唯、お互い幸せになるのを怖がっていそうだ
(若し、二人が結ばれたとしたならば。
きっとこの先に続く絶望も凌駕する結末に辿り着くだろうか)
敵ながら彼らの幸せを祈らずにはいられないのは愛しい教え子たちだからか。
オレほんと甘いなあ…
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作者名：蜜柑 | 作成日時：2018年7月7日 17時
