ヨコハマ ギャングスタア パラダヰス(後編) ページ31
考え始めたら御仕舞い。それ以外の可能性なんて考えられなくて私は気がついたら駆け出していた
向かう場所は云わずとも分かっている。記憶力はそれなりに良い方だ
(敦くんも谷崎兄妹も…無事だったらいいんだけど)
荒事に馴れている探偵社だけども、それでも心配なものは心配だ
歩道を走るにはこの時間帯は人が多いので路地裏へと方向転換
ごみ捨て場に屯っている不良が邪魔で壁を蹴り建物の屋根に登ってどれだけ
(嫌な予感って適中しちゃうのってよくあるパターンだよねえ…)
目的とされた場所には地面に伏せる谷崎兄妹と座り込む敦くん、そして対するは依頼人の女性に見覚えのある黒
ああ、あの姿を見るのは何年ぶりか。正直もうあちら側の人間には会いたくなかったけどまたこれも何かの縁か
「…………!」
『チッ……、やっぱ外れたか』
ビルの屋上から敦くんを庇いたてる様に飛び降り蹴りでも喰らわせようかと考えたが思考は筒抜けだったようで黒を体現した男は私から距離をとった
男が口許に手を当て咳き込むのを聞きつつ顔を上げれば濁った黒色と目が合った
「やはり貴様か…」
『どうも芥川くん。ごめんね、ここ空気悪いのにもっと埃舞っちゃったかな?』
相も変わらず表情に感情が乗らない無表情な人だ。それが数年ぶりの私から見た彼、芥川龍之介くん
『芥川くんにはここの空気は合わないから早いとこ帰った方がいいと思うよ』
「貴様のその減らず口は健在のようだ」
『あは、君が褒めてくれるなんて明日は槍が降ってしまいそうだ』
今日はよく喋ってくれるなあ。目だけは笑わずに言葉を交える私たちの空気は悪い
状況が状況とあって仕方がないけれど一応知りあいなんだしもう少し優しくしてほしいかな
「っ、芥川先輩を…愚弄するな!!」
なんて冗談が頭に浮かんだ途端、芥川くんの後ろに控えていた依頼人の女性こと樋口一葉が彼の前に躍り出た
その手にはしっかりとハンドガンが握られており確実に銃口は私に向いている
「止せッ!」
『そうそう止めておいた方がいいよ?だってそれは私達には“中らない”からさ』
芥川くんの制止の声も聞かずに彼女が引き金を引いた
だが、そのどれもが中ることなく私の背後の壁に弾丸を残すだけ
「なっ……」
『云ったじゃん、中らないって』
「どうして……」
今まで静観して成り行きを見守っていた敦くんの疑問に答えられる答えなんて一つしかない
『これが私の異能力だから』
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作者名:蜜柑 | 作成日時:2018年7月7日 17時