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Prologue ページ1

降り頻る雨の中、脇目も振らず独りの少女が夜闇を駆けていく


呼吸もままならず走り行くその姿は横浜の街を平凡に暮らす者たちにとっては異質な存在である


無我夢中で唯走る


少女の脳裏に浮かぶのは行きつけのバーで身分も何もかも忘れて気楽に過ごした彼らの内の一人

ちょっと抜けてるところもあるけど人を殺すことだけは絶対にしない

まるで父親のような眼差しで見守り、時には心情を汲んでくれた大切な人



(また、私のせいで誰かが死んだ)


頬を伝うのは雨粒か、それとも涙なのか。
それは少女にしか分からない



「わっ!」


『っ、!』


我武者羅に走っていたせいか、不意に曲がり角に差し掛かった途端誰かとぶつかった

互いに尻餅をつきぶつかった相手は傘を落とした

「大丈夫か乱歩」


「いたた…ちょっと、何処見て__ってA?」


乱歩と呼ばれた青年は少女の姿を一目見ただけで全てを察したのかぶつかったことに謝罪を求めることもなく無言で立ち上がった

その儘少女の側に歩み寄ると目線を合わせるように屈んだ


「乱歩。今、Aと言ったが…」


「社長の言ってた室生Aで間違いないよ。ほら、立てる?」


『、やめてください!!』


差し出された手を唐突にAは払いのけた

今まで下を向いていたAの瞳は街灯に照らされ濡れていることがわかる

明らかな拒絶の叫びに社長こと福沢は驚愕するが払いのけられた当人は静かに少女を静観している


『駄目です、駄目なんです乱歩さん…。これ以上私……誰も殺したくないんです…』


優しくしないでください。蚊の鳴く音でそう口にする幼い少女に乱歩は口を開けて、閉じた


「……君は誰も殺してないよ」


『ちがっ、だってオダサクは…!!』


悲痛に泣き叫ぶ彼女の頭を彼は撫で上げる
雨に濡れて不快な筈なのに乱歩が顔を歪めることはなかった


『乱歩さっ……』


「君は言ったね。自分の大切な人は絶対に死んでしまうと
…でもそれは今日で御仕舞いだ」


『……どうして、どうして分かるんですか』


ボロボロと涙を溢して泣く少女の問い掛けに青年は不敵に笑った


「僕が名探偵だからさ」


『なに、それ…』


「Aは僕の推理を信じないのかい?」


その推理が優しい嘘なのか、真実なのかは小さな名探偵にしか分からない

だが、少女の心が僅かに救われたのは確かだった


「ほら、今度こそ帰るよ。僕お腹空いたんだけど」


差し出された手は今度こそ振り払われることはない

Prologue→



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作者名:蜜柑 | 作成日時:2018年7月7日 17時

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