【短編集】ハロー、狼さん【狼ゲーム】 (ページ5)

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贖罪霜月ユキナリページ5

カーテンから漏れる光に眉を潜めて数分後、まだ眠気が完全に醒めないまま隣の温もりを探す

けれど私の手は空を切ってそこには誰もいない

慌てて起き上がり軽く嫌な汗をかいて寝室を駆け足で飛び出す

「あれ?今日は早いね」

リビングとキッチンに続く扉を勢いよく開けてみせれば探し人は呑気におはようと笑った

その笑顔にユキナリくんがいなくなっていない事実を噛み締めることができて形状し難い感情が溢れる

「うわっ、…どうしたの?」

『ううん…なんでもないよ』

感情の赴くまま彼の腰に抱きつけば若干ふらつきつつもしっかり受け止めてくれた

私たちは今日も何気ない一日を過ごしている。平凡な在り来たりな…それこそ狼ゲームなんてなかったかのような現実

「……大丈夫。俺はAを置いて何処かに行ったりしないよ」

ぽんぽんと彼が私の頭を撫でる手つきは優しくて愛されているんだと改めて実感する

あの殺し合いゲームの反動か、時折ユキナリくんも私を置いていなくなってしまうんじゃないかと不安になる

そう感じることが生きる私たちの罰なんだけど

『……最近、ユキナリくん一枚上手になってきたからムカつく』

「え、上手?」

『前までは手を繋ぐだけで照れてたくせに、最近は私が振り回されてる気がする…』

わざと膨らませる頬に彼がくすり、微笑を浮かべた

と、思ったら少し屈んでちゅっと唇に触れるだけの軽いキス

『なっ…!』

「あはは。Aが可愛かったからつい」

『そーいうところが狡いんだって…!』

何回もしているとはいえ、羞恥心が拭えることはまだない
ぽかぽか、力なく殴っても彼はどこ吹く風だ

「……もう逃げたくなんかないからさ」

不意に彼の声音が固くなり、私も咄嗟に背筋を伸ばしてしまう

逃げずに前を向く。それを私たちは忘れてはいけない、これからもずっと

「だから今度は追いかけることにするよ」

『へ?』

そう言うや否や、彼が私の肩を引き寄せ抱き締めた

「俺から逃げないでね」

『……私が逃げないって知ってるくせに…』

私たちは今日も何気ない一日を過ごす。
それがどれだけ幸せなことなのか、幸せを噛み締めて生きていく