15.報告 ページ16
「…ということがありまして」
「…」
現在、事務所のダンストレーニング室。ライブで行うダンスアレンジ用の振り付けを練習するため、メンバーが勢揃いしたはずなのだが、今はトレーニング室の片隅でAの報告内容に耳を傾けていた。
身振り手振りで昨日あったことを説明すると、全員が信じられないといった顔で、Aを凝視した。とくにハナは顎が外れてしまいそうなほど口を大きく開けている。身体は微動だにもしなかった。
「ハ、ハナ…？」
Aが呼びかけても今の姿勢から全く動かない。見かねたメイが溜息をついて、ハナの下顎を上に押し上げ、口を閉じさせた。途端にまた口が開いてしまったので、メイは肩をがっくりと落として諦める。
「ハナはね、生粋のヒーローマニアなんだよ」
ヒーローマニア？とAが首を傾げると、カノンが前のめりになって説明を始める。
「私達もこの間知ったんだけどね、前からヒーローが好きだったんだって。その話をしてたとき、Aちゃん爆睡してたから覚えてないかもだけど…」
爆睡していたのか…とAは少しの頭痛を覚えた。
そういえば、AがZ市に行く際、A級のヒーローを護衛につけるよう真っ先に提案したのはハナだった。ヒーロー好きであれば強いヒーローを知っている筈だし、選出するにも適任だ。もしかしたら来る筈だったヒーローもハナだったら知っていたかもしれない。
暫く話を聞いていたが、ハナのヒーロー好きは留まることを知らず、どうやらハナは実兄の弟子であるジェノスを一番に応援しているようだった。
思い返してみると、確かに顔立ちがとてもハンサムだったような気がする。歳の割には落ち着いていて(熱心なAのファンではあったが)、人気が出ていても何もおかしくないだろう。
「Aは実際に会ったんだよね？どうだった？」
今まで静かに聞いていたイチカもとうとう我慢ができなくなったのか、実物のジェノスについて知りたがった。もしかしたらイチカもヒーローが好きなのかもしれないと思ったAは慎重に言葉を選ぶ。
「ええと…そうだな…凄く礼儀正しくて、良い人だった…かな？」
当たり障りのない感想を述べると、ハナ以外のメンバーが同じタイミングで大きな溜息をついた。
Aが困惑していると、イチカが食い気味に返す。
「そんな普通のことを聞いてるんじゃなくて、どんな乙女シチュエーションがあったか聞いてるの！」
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作者名：みかんどっとこむ | 作成日時：2020年12月10日 1時
