14.帰路 ページ15
マネージャーの意識が現実世界に戻ってきたところで車へと乗り込む。
「お兄ちゃん、本当にありがとね」
「あぁ、また来いよ」
車の中からゆるく手を振るAにサイタマも手を振り返した。
マネージャーはサイタマが命の恩人だと分かってはいるが、現実離れした強さに畏怖しているようでもあった。サイタマの方を見てはいるが、目を合わせられないようで目線が所在なく上下左右に彷徨っている。
サイタマはそんな反応に慣れているのか、何事も無かったかのように、マネージャーに軽く会釈をした。
「Aをよろしくお願いします」
Aは兄のよそ行きの姿を初めて見たので、目を見開いて驚いてしまった。マネージャーも思わず、いえ、こちらこそ、と首がもげてしまうのではないかというくらいに何度も深々と頭を下げた。双方で会釈をしあっているものだから、延々と続いてしまうかもしれないと感じたAが、そろそろ行くように促すとようやく発進した。
Aはサイタマの姿が見えなくなるまで、リアウィンドウを見つめていた。
「驚いたよ…Aのお兄さんが怪人を倒すなんて…」
マネージャーは余韻を堪能するかのように呟いた。
確かに側から見れば危険な怪人を倒せるヒーローには見えないし、何より拳一つで遠くまで吹っ飛ばしてしまうだなんて、A 級のヒーローでも数えられるほどいるだろうか。
Aはそっと目を閉じ、つい先程の兄の動きを思い出してみる。
残像さえ見えないほどのスピード、無駄のない動き、そして嫌でも脳裏に刻み込まれる破壊力。どれをとってもS級のヒーローになるに相応しい能力だ。最初に依頼していたヒーローとは天と地ほどの差だろう。
Aは、ふと思い出したようにマネージャーに問いかける。
「そういえば今日来るはずだったA級のヒーローって誰だったの？」
マネージャーは仏のような表情を浮かべて答えた。
「……まぁ、世の中色々あるってことだよ。」
車で1時間ほど走ると、漸くA市へ到着した。
高いビル群の中でも、独特な構造で建てられているのは、Aが所属している事務所だ。レッスンルームやレコーディング室など、様々な施設が整っているからか、他のビルと比べても頭ひとつ飛び出るほどの高さを誇る。
Aは、そんな事務所が保有している宿舎で暮らしている。事務所と隣接しているため、帰宅する時は必然と事務所に向かうこになる。
「送迎ありがとね。じゃあまた明日。」
「こっちこそよろしくね。おやすみ〜。」
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作者名：みかんどっとこむ | 作成日時：2020年12月10日 1時
