Prologue ページ1
話したい。
Aにそう言われるのは
ノートンにとっては、いつもの事だった。
試合がある。と返すと
頑張って！と返される。
疲れてる。と返すと
ゆっくり休んで。と返される。
今回も、そんなやり取りの繰り返しだ。
『別れよう。』
返事も聞かずに、Aは告げる。
妙に落ち着いた鼓動と、停止した思考回路。
「…そう、わかった。」
不思議と衝撃はなかった。
喉の奥に息がつっかえただけで
特にこれといった異変はない。
『じゃあ、ノートンの……いや。
��キャンベル様��の部屋にある荷物は
全て捨ててもらって構いません。
＿＿＿＿＿＿今まで、ありがとうございました。』
めんどくさいなぁ。
分別するのは俺の役目か。
我ながら、最低なことを考えて
こちらこそありがとうと手を振った。
部屋に戻って
彼の荷物を片付ける。
水色の歯ブラシ。
グレーのクッション。
お揃いの衣装から、君がくれたプレゼント。
ふと、ベッドに置かれた枕が目に入る。
「(随分と一緒に寝てたなあ。)」
持ち上げれば
君の髪の、優しい匂いがフワリと香る。
「…は？」
喉につっかえていた息がどうしてか
涙になって、頬を伝っていった。
夢じゃない。
そんな言葉が
やっと思考を働かせる。
拭っても拭っても
収まるどころか、とめどなく流れて
消えてくれない。
君が隣にいないこと。
笑って帰りを待つ君がいないこと。
どれだけ待っていても、君からの手紙が来ないこと。
君がもう、俺の恋人じゃなくなること。
色褪せた部屋が
いつもより広く感じる。
あぁ、そうか。
「全部、夢じゃなかったんだ。」
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作者名：お茶の子 | 作成日時：2024年4月21日 22時
