短い片思い。完 ページ3
「__なあ、聞いてる?」
「あ、」
ふと、我に返る。
「さっきからぼーっとして、魂抜けたかと思った。」
「抜けてたかも。」
「まじか。」
隣りにいた郁真はまた立ち上がり、最初と同じ体勢になった。
おお、横が広くなった。
「聞いてなかったみたいだからもう一回聞くけどさ、」
「うん。」
「木ノ実は好きなやついるの?」
彼は私の顔を覗いてくる。
顔が近い。
まっすぐ私の目を見る彼の目は真剣だ。こんな郁真を見るのは初めてかもしれない。
なぜ、私の恋愛にそこまで興味をもつのだろうか。
私の話を聞いても役に立たないと思うのに。
郁真は、好きな女の子でもいるのだろうか。
「。。。いるよ。」
「んぇ”!?」
郁真の頬が赤く染まる。
何故。
「だ、だれだよ。。。」
「え?」
声が裏返る。なぜか顔が熱い。
同時に目の奥もじわーっと熱くなる。
彼はじっと無言で私の返答を待つ。
恥ずかしいなあ。
私は先程閉じた本の表紙を彼に向けた。
彼はキョトンとした顔だ。
「この小説を書いた作家さんはね、八神正秋って言ってね、」
「おい。。。話逸ら。。。」
「私の、義理の兄なの。」
「え。」
さらに拍子抜けな顔になった。
おもしろいなあ。
「片思いだったんでけどね、正兄さんはいつも私に良くしてくれて、一緒にいると楽しくて、なにより、」
「なにより。。。?」
「安心するの」
頬に何かがこぼれた、気がした。
久しぶりに昔のこと思いだしたからちょっと苦しい。
郁真にかっこ悪いとこ見せてしまった。
なんかいやだ。
あー会いたいな。
またあの大きな手で撫でられたいな。
「あー、正兄さんに会いたい。」
「そっか。」
彼は少し困った顔をした。なぜか彼も悲しそうだった。
やめよう、この話は。
郁真を困らせるだけだ。
私は大事な本を鞄の中へとしまった。
「んで?」
「へ」
うつむいた彼は気が抜けた声を漏らす。
まったく、なんでそっちも暗くなってんだか。
話さなきゃよかったなあ。。。
とりあえずなにか私の話からそらそう。
「郁真は好きな人とかいるの?」
「俺??」
私の恋愛話をしてあげたんだから郁真も話すのは当たり前だと思う。
このまま聞き逃れはさせるものか。
今度は私が彼の顔を覗こうとしたら背を向けられた。なんなんだ。
「いる。」
短く一言言った。
「でも片思い。」
「そっか。おなじだね。」
「だなー。」
電車の揺れは次第にゆっくりになり、やがて止まった。
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作者名:冰乃 | 作成日時:2018年6月11日 20時