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21話 ページ23

あれから風のように時が過ぎた
混乱の事後処理も終え、仕事が落ち着いた頃

私は自身のスペアを創りだしていた

診察台の上には、私のスペアが美しい寝顔を晒している

陶器のように白い肌に、薄桃色の唇
濃い茶色の、緩やかに波打つ長髪

我ながら素晴らしい出来だ

自画自賛をしながら、私は彼女を起動させる

「………」

スペアが、ゆっくりと状態を起こす

それから私の方へと視線を向けた
彼のような、美しい赤い瞳が私を捉える

「……あなたは」

「私はA。よろしくね」

「A、様」

彼女は私の名を呟く
それから私を見上げ、聞いた

「天司には役割があると聞きます。私の役割は、何なのでしょうか」

「君は私のスペア……まぁ、私の補佐だと考えてくれればいいよ」

「A様の補佐、ですか」

「ああ、これから君には私の仕事について学んでもらう。他に質問はあるかな?」

「いえ、ありません」

彼女は事務的に答える

流石私のスペアだ
状況の飲み込みが早い

そこで、私は思い出したように言う

「そういえば、君の名前を教えていなかったね」

「私の名前、ですか」

「サタナエル。それが君の名前だ、これからはそう名乗りなさい」

「サタナエル……はい、わかりました」

彼女は少し、嬉しそうに自分の名を呟く
名前をつけられる、というのはとても嬉しいことだ

私もそうだったから、よくわかる

「ここは君の部屋だから、好きなように使ってくれ。一般的な生活については一応情報は入れておいた筈だけど、大丈夫かな?」

「はい、問題ありません」

「それは良かった。では、仕事は明日から教えよう。今日はゆっくり休んでくれ」

そして私は彼女の返答を聞かず、部屋を出る
背後で彼女の引き止めるような声が聞こえたが、知らないふりをした

すぐさま隣への自室へと駆け込む
乱暴にドアを閉めた後、大きく息をつく

ドアにもたれかかり、ズルズルと座り込んだ

目が熱い
あの時と同じ感覚だ

……今更、何を泣いているんだか

私は自嘲的に笑う

何故泣いているのか、理由はわからない
だが彼女を起動させた瞬間、得体の知れない感情が私を支配したのだ

人の身は、なんと不便なことだろう

彼は何故、私にこんなプログラムを入れたのだろうか
お陰でこっちはいい迷惑だ

もういない彼に向けて、不満を思う

「……楽しみにしていると、言ったくせに」

ついでとばかりに、そんなことを恨みがましく呟いた

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うさ - 続き楽しみにしてます。 (2019年6月30日 18時) (レス) id: ef6ea16959 (このIDを非表示/違反報告)
東雲ノア(プロフ) - 表現、話の内容、書き方全てがとても好みです。久し振りに素敵な作品に出会えました。陰ながら応援してます。 (2019年4月5日 12時) (レス) id: be86295bcb (このIDを非表示/違反報告)
こまこ - 最高です。 (2019年3月24日 4時) (レス) id: 95e04e1a30 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もちもち | 作成日時:2019年3月14日 13時

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