それでも私は山田家の娘VII （兵助編）

ただいま ページ8

「A」

私の名前を呼びながら、兵助が私の額を愛おしげに撫でる。

「ごめんな」

そう言って微笑まれると。

……何も言えないじゃん。

「ねぇ、私ってどれくらい寝てたの？ なんかすごく身体が痛いんだけど」

さっきも起き上がって皆と話をしようと思っていたのに、全身が痛くてできなかった。
見兼ねた先輩達が止めてくれたけれど、あのままだとこの年で腰痛になるところだった。

「えっと……一週間？」
「いや、なんで疑問形」

私が思わず突っ込むと、兵助はへらっと笑った。

……ダメだ、なんか全てを許したくなる。

「本当に一週間も寝てたの？ そんなに疲れることはしてないつもりなんだけど」

私が首を傾げた時、カラカラと音を立てて障子が開いた。

「何言ってるの。但馬国(たじまのくに)から休まず歩いてきて、学園で兵助の治療して、そこからナルト領まで強行軍のように歩いた挙げ句に二日間ろくに寝なかったんだろう？ そりゃ倒れるよ」

ハァ、と呆れ混じりの溜息を吐きながら、伊作先輩が入ってきた。

「あ、伊作先輩……」
「おはよう、って言ってももう夜だけど……。調子はどう？ 全身の痛みの他に、何か異常はある？」

熱はないみたいだね、と至って普通に接してくる伊作先輩に、私は曖昧に笑った。

「多分大丈夫です」
「そう。なら面会許可を出しても良さそうだね」

そう言うと、先輩は外にいる誰かに声をかける。
そうして入ってきたのは。


「調子はどうだ？」
「A、大丈夫か？」

「父様、半助兄様も……」

私の感覚ではまだ三日四日くらいしか経っていないはずなのに、何故かものすごく懐かしく感じる。

「仙蔵からAの目が覚めたと聞いてね。早く会いたくて、押しかけちゃったよ」

相変わらずの童顔で、半助兄様はにこりと笑う。

「おかえり、A」
「よく頑張ったね」

優しく頭を撫でられて、私はスッと目を細める。

「ただいま」

変わらない、何も。

子ども扱いですら、それを感じさせてくれるから嬉しかった。

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