……好きだよ。 ページ6
真っ黒な世界に、私はいた。
前も後ろも、右も左も真っ黒なのに、足元の道だけはぼうっと白く光っている。
そんなところを、私は一人、ゆっくりと歩いていた。
どこへ向かっているのか、見当もつかない。
ただ、ひたすらぽてぽてと歩いていた。
そうしているうちに、だんだんと向こうの方が明るくなっていく。
そこにぼやぁっと一つの人影が浮かび上がった。
……兵助だ。
顔は逆光になっていてちっとも見えないのに、何故かそう思った。
目指すべき場所が定まったことで、私は俄然やる気が出てきた。
地面を力強く踏みしめて歩いていくのだけれど、一向に距離が縮まらない。
それどころか、歩けば歩くほど距離は離れていく。
……兵助、兵助、待って! 待って、置いてかないで!
必死になって兵助を追いかけていると、後ろから誰かが「A」と私を呼んだ。
「誰?」
振り返る直前、遠くに見える兵助は、確かに微笑んでいた。
「……兵助?」
うっすらと目を開けると、頭上に兵助の顔が見える。
……そっか、まだ夢なんだ。
「良かった。A、やっと起きた」
微笑んだ兵助が私の頭をそっと撫でる。
……最期に、会いに来てくれたのかな。
優しい手に、ふっと笑みが溢れた。
「ねぇ、兵助。私、頑張ったのよ? どうにかしてもう一度兵助に会いたくて……。勘ちゃんたちのことなんて、全然気にしていられなかった」
「なんで、Aが、そこまで……」
意味がわからない、といった風に首を振る兵助に、私は堪えきれなくなって顔を歪める。
「……たかったんだもん。……好きだったんだもん。ずっとずっと、好きだったんだから……っ」
やっと言えた。
ようやく言えた。
もう、遅すぎるかもしれないけれど。
「俺も」
私の頭を優しく撫でて、兵助がふっと笑う。
「俺も好きだよ、A」
視線が絡み合って、捕らえられたように逸らすことができない。
……と、その時だった。
「失礼します、乱太郎です」
「伏木蔵です」
「「保健委員の当番に来ましたー」」
静かに障子が開けられて、乱太郎と伏木蔵が入ってきた。
まるで寝ている誰かを気遣うように、小さな声で喋っている。
私は慌てて布団を被ろうとした……のだが。
「わぁっ、二人とも、しぃーっ!」
「今いいとこなんだから!」
これまた小さな声で、数馬と左近が叫ぶのが聞こえてきた。
「……え?」
恐る恐る兵助の顔を見る。
にこり、と兵助が笑った。
「え? ……え?」
81人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
なな - 久々知兵助で検索して、こちらの作品がヒットしたので一気読みしました!控えめに言うとものすごく面白くてキュンとしました!!文章の表現も雰囲気も場面によって様々で熱中して読みました!素敵な作品をありがとうございました😊 (9月4日 14時) (レス) @page33 id: a1947559ed (このIDを非表示/違反報告)
冴川冬香(プロフ) - 白狐さん» ありがとうございます!コメントくださっていたのに気がつけなくてすみません……。温かいお言葉と応援、とても嬉しく思います。白狐さんに少しでも楽しんでいただけるよう、頑張りますね。これからも読んでくださると嬉しいです。 (2021年5月28日 18時) (レス) id: 33f8ec8fc5 (このIDを非表示/違反報告)
白狐 - 完結おめでとうございます!とても面白かったです! 夢主と兵助が幸せになっていてうれしかったです! 山田家、とても暖かいいい家族でほっこりしました。 天然同士の恋愛ってとても面白いですね!!ほかの作品も頑張ってください! 伊作編も楽しみに待っています! (2021年5月23日 20時) (レス) id: d19a121be2 (このIDを非表示/違反報告)
かにかま(プロフ) - メッセージ戴けてとても嬉しかったです!謝らないでください!!私の返信もちゃんと届いていたようで安心しました笑 いやいや、大したことは言っていませし、完結したのは全て冬香さんの力ですよ。でも、誉めてくださりありがとうございます。 (2020年12月23日 0時) (レス) id: c18fa87c81 (このIDを非表示/違反報告)
冴川冬香(プロフ) - かにかまさん» 最後まで書ききれたのはかにかまさんのあのお言葉のおかげ、というところもあるので、少しでも楽しんでいただけたのなら幸いです。 (2020年12月21日 23時) (レス) id: 33f8ec8fc5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:冴川冬香 | 作成日時:2020年11月15日 8時