それでも私は山田家の娘VII （兵助編）

差し入れ ページ21

「ただいま帰りました」
「久々知くん、Aちゃん、おかえりなさい」

夕方。
二人で手を繋いで学園に戻ると、小松田さんが出た時と同じ笑顔で迎えてくれる。

「夕飯までまだ時間あるけど、Aはそれどうするの？」

兵助の言うそれ、とは、満月堂の生菓子六つ。

勘右衛門に饅頭を買うついでに購入したのだ。

「今持ってっちゃう。多分皆会計委員会室にいると思うし」

「わかった。夕飯の時には迎えに行くから」

そう言って頭を撫でてくる兵助にありがと、と返して、私は会計委員会室に向かった。




「失礼します、五十嵐です」

ガラッと障子を開けてそう言うと、案の定、会計委員の面々が眠気と戦いながら委員会活動をしていた。

「あ、A先輩」
「どうされたんですか？」

比較的意識がはっきりしているらしい三木ヱ門と左吉が、私を見て首を傾げる。

それはそうだろう。
今日私は会計委員会活動を休むと言っていたのだから。

「差し入れ。満月堂の生菓子だよ」

手にした風呂敷を掲げてみせると、後輩たちはパァッと顔を輝かせる。

「いいんですか？」
「ありがとうございます！」

「悪いな、気を遣わせて」
「気にしないでください」

五年間会計委員だったわけだし、今でも半分くらいはそうである。

ウチの子が皆可愛いから満足なのだ。

「ほら、団蔵。先輩がお菓子持ってきてくださったぞ。起きろ」
「おい、左門。起きろ」

左吉と三木ヱ門が、動きのない二人の身体をゆさゆさと揺すって起こす。

「ん……。お菓子……？」

左吉のお菓子という単語に反応する団蔵。
子どもらしくていい……ということにしておく。

「左門、寝るな。おい、バカさもーん」

図太く寝続ける左門に、三木ヱ門が冗談混じりにそう言う。

「失敬な！ 私は寝てなどおりません！ 私は寝ていない。私は寝ていないぞ……！」

ガバッと起き上がって天井にそう叫び出した左門を、呆れたように三木ヱ門が小突く。

「嘘を吐け。バリバリしっかり普通に寝ていただろうが！」

まったく……、と三木ヱ門がぶつぶつ小言を言うのだが。

「あれ、A先輩がいる。どうかなさったんですか？」

全てを華麗にスルーした左門が、にかっと笑って言う。

「その話を今していたんだ！ やっぱり寝てたんじゃないか！ それから私の話を無視するな！」

……うん、三木ヱ門、落ち着け。

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