それでも私は山田家の娘VII （兵助編）

小物屋 ページ20

「あ、あのお店見たい」

「あっちのお団子美味しそう」

「わぁ、あの小袖素敵」

「あの簪いいなぁ」

手を引いて街の中をくるくると歩き回る私を、兵助はにこにこと笑いながらついてくる。

「……ねぇ、兵助。兵助はそれで楽しいの？」

あまりに私の買い物に振り回してしまっているから、気になって聞いてみるのだけれど。

「Aが楽しそうだからいいの。あの簪、どうする？ 買う？」
「ううん。見てるだけでいい」

見ているのは楽しいけれど、買うほどでもない。

「そうか。……あー、あの店見ていい？」
「向こうの小物屋さん？ いいよ、行こう」

ようやく自分の行きたい店を主張してくれて内心ほっとしつつ、歩幅を合わせてゆっくり歩く。

こういうの久しぶりで、なんかちょっといいな。


店の主人に何やら話しだした兵助を視界の端に入れつつ、私は店内を見て回る。

外から見ただけではわからなかったけれど、この店は横幅の割に奥行きがあって結構広い。

商品が品良く並んでいて、見ているだけでも十分楽しい。

「む？」

しばらくぶらぶら歩いていた私だが、店の一角に置いてあるものを見て足を止める。

「あ、すみません。ちょっといいですか？」

裏の棚に商品を陳列している店員のお姉さんを見つけ、私は声をかける。

「はい。あ、こちらお買い上げですか？ ありがとうございます」

支払いをしに作業台に向かっていると、お姉さんがにこにこと話しかけてくる。

「あちら、彼氏さんとかですか？」
「は、はい」
「今日、美人カップルがいるって街で噂になってたけど、きっとあなたたちですね。羨ましいわ。じゃあこれ、傷とかないか裏で確認してきますから、少々お待ちください」

うふふ、とお姉さんが奥へと消えていく。

……美人なのは兵助であって、私は十人並みの顔なんだけどな。





「ありがとうございましたー」

店員のお姉さんに見送られ、私は店の外に出る。

カップル割よ、と言って三割り引きにしてくれたから、思っていたより懐が痛まなくてちょっと安心。

程なくして、兵助も出てきた。

「お待たせ」
「ううん。何かいいものあった？」
「うん」

嬉しそうに笑う兵助に、私も笑い返した。

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