数馬 ページ13
ぐぅぉぉぉお、という地に響くような音に驚いて私は飛び起きる。
「え、な、何!?」
布団の上でキョロキョロと辺りを見回すけれど、誰もいない。
私は長時間寝ていたらしく、外はもう真っ暗で、誰の声も聞こえない。
「じゃあ、尚更何の音?」
こてり、と首を傾げると、お腹がぐぅっと鳴った。
「えっ、あ、お腹の音……。やだ、恥ずかしっ」
誰も見ていないとはいえ、結構恥ずかしい。
私は一人で照れ隠しにあはは、と笑っていたのだが。
「……先輩。A先輩」
微かに何か聞こえた気がして、私は顔を上げる。
「A先輩、おはようございます。お夕飯、どうしますか?」
今度こそはっきりと声が聞こえて、私は振り返る。
そこには、何とも言えない微妙な顔をした、数馬がこちらを見ていた。
「えっ、やだ、数馬、いるなら言ってよ。びっくりしたー」
手をパタパタと振って言う私に、数馬が自嘲気味に笑った。
「ずっと声をかけてました。先輩、全然気づいてくれなくて……」
やっぱり僕、影薄いのかな、と一人で悩み始めた数馬に、私は曖昧に笑う。
「それで、お夕飯はどうしますか? 久々知先輩が持ってきてくださった冷奴ならありますが」
「お腹空いたし、もらっちゃう。別に、普通のご飯食べてももう問題ないよね?」
私の問いにこくりと頷くと、数馬は冷奴を差し出してくれる。
「じゃあ僕、何か作って来ますから、しばらく待っていてください。すぐにできますから」
そう言って立ち上がった数馬を、私は待って、と引き止める。
「数馬が作るの? おばちゃんは?」
「もう寝てると思いますよ? 左近ほど上手くはないですけど、うどんくらいなら作れるので、A先輩はゆっくりしていてください。今日の昼も、休まなきゃいけないのに動こうとしたんでしょう?」
早口で捲し立てる数馬に圧倒されて、私は布団に戻る。
「わかった。ありがとう」
食堂へと走っていく数馬を見送った後、私は兵助の冷奴に手を伸ばす。
「いただきます」
箸で一口大に切って、私はゆっくりと豆腐を口に運ぶ。
「……美味しい」
もう寂しくもなんともないのに、ポロポロと涙が出た。
本当に美味しい豆腐って、こういうことをいうのだな、と頭の片隅で思った。
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なな - 久々知兵助で検索して、こちらの作品がヒットしたので一気読みしました!控えめに言うとものすごく面白くてキュンとしました!!文章の表現も雰囲気も場面によって様々で熱中して読みました!素敵な作品をありがとうございました😊 (9月4日 14時) (レス) @page33 id: a1947559ed (このIDを非表示/違反報告)
冴川冬香(プロフ) - 白狐さん» ありがとうございます!コメントくださっていたのに気がつけなくてすみません……。温かいお言葉と応援、とても嬉しく思います。白狐さんに少しでも楽しんでいただけるよう、頑張りますね。これからも読んでくださると嬉しいです。 (2021年5月28日 18時) (レス) id: 33f8ec8fc5 (このIDを非表示/違反報告)
白狐 - 完結おめでとうございます!とても面白かったです! 夢主と兵助が幸せになっていてうれしかったです! 山田家、とても暖かいいい家族でほっこりしました。 天然同士の恋愛ってとても面白いですね!!ほかの作品も頑張ってください! 伊作編も楽しみに待っています! (2021年5月23日 20時) (レス) id: d19a121be2 (このIDを非表示/違反報告)
かにかま(プロフ) - メッセージ戴けてとても嬉しかったです!謝らないでください!!私の返信もちゃんと届いていたようで安心しました笑 いやいや、大したことは言っていませし、完結したのは全て冬香さんの力ですよ。でも、誉めてくださりありがとうございます。 (2020年12月23日 0時) (レス) id: c18fa87c81 (このIDを非表示/違反報告)
冴川冬香(プロフ) - かにかまさん» 最後まで書ききれたのはかにかまさんのあのお言葉のおかげ、というところもあるので、少しでも楽しんでいただけたのなら幸いです。 (2020年12月21日 23時) (レス) id: 33f8ec8fc5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:冴川冬香 | 作成日時:2020年11月15日 8時