スリルとサスペンスゥ (2022.2.28改稿) ページ48
「ひぁっ!?」
先輩の背中を見送って手を振っていると、突然押さえ込めていた物が弾け飛ぶような感覚がして、全身にぐわっと熱が広がっていく。
両足に上手く力を入れることができなくて、ぐらりと身体が揺れた。
そのままどさっと床に膝をついても、身体中の熱さのせいで全く痛みを感じない。
「なに、これ……」
何度も立ち上がろうとしているのに、手に力が入らない。
……どうしよう。
壁にべしゃりと崩れた状態であわあわしていると、だんだんと熱が中心に向かって引いていくのがわかった。
徐々に指先が動くようになって、私は安堵の息を吐く。
少しずつ体制を整えて、そろそろ立てるようになるかな、と思った時。
「A? 何して……」
トタトタという小さな足音とともに、頭上から声がした。
その響きに心当たりがあった私は、ギギッと鈍い音を立てて振り返る。
どうして戻ってきているんですか。
「伊作先輩」
ようやく動くようになった右手でぽりっと頬を掻く。
へらっと私が笑うと、先輩の顔がくしゃりと歪む。
怒っているような、それでいて今にも泣き出しそうな顔の先輩が、大きく息を吐いてかがみ込んだ。
「せん、ぱ」
い、と最後まで言い切らないうちに、先輩の両腕が包み込むように私の首の後ろに回る。
ふわっと猫のような茶色の髪が耳に当たって、少しツンと鼻をくすぐる薬の匂いがして、ようやく抱きしめられたのだと理解した。
「え? あの、伊作せんぱい」
「僕ね」
どうしたんですか、と言おうとする私を遮るように、食い気味に話しだす先輩に思わず口を閉じた。
「Aのことが心配なんだ」
いつもより少し低い伊作先輩の声が、ずっしりと胸に響く。
「お願いだから、無茶しないで」
……そんな顔で、そんな声で言うなんてずるい。
「……先輩がすぐそばにいるんです。無茶なんてできるわけないでしょう?」
先輩がいたら大丈夫だから。だから、そばにいてください。
───────────────────────────
その日の深夜。
全てが寝静まって、物音一つしなくなって。
それを見計らったかのように、学園の前に一つの黒い影が降りた。
それでも何も変わらないのだと、私は思い込んでいたんだ。→←問題児
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冴川冬香(プロフ) - 白狐さん» いつもコメントありがとうございます。お返事が遅くなってしまいすみません……。白狐さんの褒めてくださるポイントは全て私が気に入っているところなので、毎回コメントをいただく度ににこにこしています。これからも楽しんでいただけると幸いです(*^▽^*) (2022年3月2日 21時) (レス) id: 33f8ec8fc5 (このIDを非表示/違反報告)
白狐 - 今年も冴川さんのペースで更新頑張ってください! 応援してます! (2022年1月16日 21時) (レス) id: 06e1d35d87 (このIDを非表示/違反報告)
白狐 - あけましておめでとうございます そして、たくさんの更新ありがとうございます! お説教の段でこっそり逃げようとしても逃げられないシーン大好きです! あと、スリルとサスペンスゥの段の伊作先輩キュンキュンしました! (2022年1月16日 21時) (レス) @page49 id: 06e1d35d87 (このIDを非表示/違反報告)
冴川冬香(プロフ) - 白狐さん» いつもコメントありがとうございます。言ってくださる感想のポイントが私のお気に入りな部分ばかりで毎回にこにこしております。 Twitterの方も見てくださっているですと……!?絵も褒めていただけて嬉しいです。ありがとうございます! (2021年11月27日 12時) (レス) id: 33f8ec8fc5 (このIDを非表示/違反報告)
白狐 - Twitterも私アカウント持ってないのでフォローできてないんですけど、見させてもらってます! 絵上手ですね あと、夢垢の小説も面白いです! (2021年11月14日 20時) (レス) id: d2923587f7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:冴川冬香 | 作成日時:2021年2月7日 17時