三節 十五部 ページ30
食事が終わり、ナオは自室で何やら本を読んでいた。灯も付けず窓枠に座り月明かりの下、パラパラと静かな空間に頁が捲られる音が囁かに奏でられる。すると扉をノックする音が聞こえ、頁をめくる手を止めて扉に目を向けた。
「主殿、橙龍です」
「ん、入っていいよ。どうしたの？」
珍しいと思いつつ、ナオが本を閉じると同時にガチャリと扉が控えめに開き、そっと顔を覗かせる橙龍は少し困った様な表情を浮かべていた。
「あの、赤髪について、少し、」
「あぁ、アカのこと…」
何となく言いたいことがわかったナオはじっと橙龍の言葉を待つ。言葉の返し方を考えながら。
橙龍はぐっと手を握ると顔を上げて口を開いた
「俺はずっと悩んでいます、あいつを信じていいものか。あんな、一線を引いて、その囲いに体を縮こませ己を閉じこめて……我らと深く関わらないように……」
徐々に小さくなっていく声。ナオは窓枠から足をおろしそのまま足組みした。橙龍からは月の逆光により顔はよく見えない、けれどいつも違い何処か儚げな雰囲気ある様子に慣れず身を固める。
「なんだ、そこまで分かっているなら答えはすぐ出るんじゃない？…まぁ、自分が何か言うとなると……信じるか否かは自分で決めりゃいいと思う。信じたいなら信じればいい、信じたくないなら無理して信じようとしないでいい。信じないこと自体は悪いことではないんだから。自分は信じることしか出来ないから………あー……いや、彼を信じたいから、自分は信じてる」
ナオの言葉に荷が降りたように楽に感じた橙龍は悩むことをやめた。
「………わかりました。俺は…あいつがちゃんと仲間になるまで信じないことにします」
「ん、わかった」
夜、ナオはベランダの椅子に座って空を見上げる。ここは灯が少なく星がキラキラと光って見える。
「綺麗だなぁ………屋根の上だともっと良く見えるかな…」
視線を屋根に移す。その瞳は好奇心に満ち溢れた子供のよう。コツコツと屋根の上を歩くことで音を鳴らす。
(風もあって涼しいな)
ナオの視界に映るのは真っ暗な世界の中、灯いっぱいに照らされる街。世界が逆さまになったと思うくらいに空は光の海でとてもキラキラしていて目を瞑りたくなった。
(さて、もう戻ろう。早く寝て早く起きて、依頼を達成させなきゃね)
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作者名：宇宙ノ彼方 | 作成日時：2019年7月28日 19時
