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帰ってすぐにシャワーを浴びても、気持ち悪さは治らないままだ。髪の毛を乾かすのも億劫で、そのままソファに腰を沈めた。
「ヌナ、まだつらい?」
「ん…少し落ち着いたきがする」
「うそ、まだ全然真っ青だよ」
トコトコと近づいてきたユンギくんの手にはマグカップがふたつ。片方を差し出されて受け取ると、ふわっと甘い蜂蜜の香りがした。
「これ、」
「ハチミツレモン。ちょっとはマシになるかな、なんて」
「わあ…ありがとう、ユンギくん」
早速口に含むと、じんわりとやさしい甘酸っぱさが広がり懐かしい気持ちになる。そういえば昔、私たちの家がまだ隣同士だった頃、私が風邪をひくといつもユンギくんが作ってくれてたなあ。
「おいしい…」
「ん、よかった…髪も乾かしてあげるから、ちょっとずれて」
いつの間にかもう一つのマグカップはテーブルに置かれていて、ユンギくんの手にはドライヤーがあった。
ソファの背もたれと私の間に身体を滑り込ませたユンギくんは、そのままソファの背もたれに座り、私を足で挟み込むようにして座らせた。そして何度か私の頭を撫でたあと、ブォオと温かい風と一緒にユンギくんの掌が優しく私の髪に触れた。───至れり尽くせりの状況は、気持ちよくて眠くなりそうだと、ハチミツレモンを飲みながら思った。
「───ナ、ヌナ………A」
「………はっ、ごめん寝ちゃってた…?」
「だいじょうぶ。それより髪乾かし終わったよ」
ユンギくんの声が遠くから聞こえてきて、微睡んでいた意識が浮上する。髪を乾かしてもらうのが心地よすぎて半分意識が飛んでいたみたいだ。
「何から何まで…ありがとう」
「はは、今日のヌナはありがとうばっかりだ」
「だって……………あれ?」
「ん?」
「もうきもちわるくない…」
「………マジ?」
さっきまでの気持ち悪さが消えて、嘘みたいにいつも通りになった。嬉しくて思わずユンギくんにハグしてしまった。
「なんかわかんないけど、もう大丈夫!ハチミツレモンのおかげかな?髪も乾かしてくれてありがとう」
「体調良くなったならいいけど…あんま無理すんなよ」
念のため今日は早めに寝な、とユンギくんは優しい言葉と一緒に頭を撫でた。明日は花火大会もあるし、素直に従おうと思う。これじゃあ本当に、どっちが年上かわからない。でもユンギくんがお兄ちゃんっていうのもそれはそれでいいなあなんて、思わず頬が緩んだ。
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作者名:みいこ | 作成日時:2022年9月6日 15時