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HJ side
Aにカメラを渡すと戸惑いながらもシャッターを切る音が聞こえて近寄る。
「ヤー、どこ撮ってんの、笑」
『昨日撮られたお返しです、笑』
いらないよ自分の写真なんて、と言いつつ
データを見返して冗談を言うとAも頬を緩ませて笑う。
「あ、今のも撮っとけば良かった。」
『え?』
「んーん?お昼食べに行こ。」
心の声がダダ漏れだったことに恥ずかしく思いながら
聞こえてなかったのをいいことにさらっと流して
ご飯屋さんに向かう。
何でこんなに暑いんだろ、と
服をパタパタしているとAがハンカチを貸してくれる。
ありがとう、と受け取ってふと顔に寄せると
ふわりとAらしい優しい香りがして。
「いい匂い。」
『わ、やめてください』
恥ずかしかったのか手を伸ばしてくるAから
逃げながら、こんなに心から楽しいって思ったのは
いつぶりだったっけ、と思った。
お昼はほっぺをいっぱいにして食べるAを見て。
昨日とは違う美術館にも行って。
あっという間に今日が終わってしまうことに
寂しさと焦りを感じる。
日も落ちて、2人でぶらぶらと歩く。
「Aはさ、もう卒業じゃん。どんな仕事するの?」
『うーん、大学に行ってから考えようって
軽く考えちゃってたんですけど、
色んな国の言語とか文化とか知ると
もっと直接見てみたいって思ったり。』
あと数ヶ月で就職なのにフラフラしてて適当ですよね、
と苦笑いする。
「俺なら、」
『え?』
風にかき消されそうな声で呟く。
「俺なら、世界中連れて行ってあげれるけどね、」
Aは聞き取れたのか。
どう受け取ったのか。
いや、いっそのこと聞き取れなくていい。
どうせもうお別れだから。
ちらっと顔色を伺うと
ふわっと笑って頼もしいですね、と言う。
気づいたら腕の中にAを引き摺り込んでいて。
自分でも何してるんだって、
早く離れなきゃって思うのに小さくて暖かいこの存在が
今この瞬間は何よりも大きくて大切に感じた。
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作者名:み | 作成日時:2023年12月17日 22時