君にありったけの。 (ページ2)

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Aside

次の休みには絶対来ようと決めていた美術館に
ようやく足を運んだ。

飽き性な私にはぴったりの、
絵画もありラボもありの現代美術館。

ぐるりと回ってから1番大きくてどこか惹かれる絵の前の
ソファに座ってぼーっとする。

今日は空きコマで来て、
平日だからなのかそこまで人は多くない。

そろそろ行こうかな、と重たい腰を上げたところで
1席あけた隣にいた男性も立ち上がり目の前を通る。

ひらっとポケットから何かが落ちたのが見えて
急いで拾う。

ここの入場チケットだけどもういらないかな...
でも大切にしたい人もいるし...

『あの、』

とりあえず横までいって声をかけると
あからさまに怪訝な顔をされる。

『チケット、落ちました。』

「あ...」

ぺこりと軽く頭を下げてからさっさと美術館内の
カフェに向かう。

良いことをしたつもりなのに
どこか少し嫌な気分になったのはきっと彼の表情のせい。

カフェでケーキセットを頼んで届くのを待っている間に
ショップで買った本を開く。

さっき見た大きな絵は...と探していると
目の前のテーブルをコンコンと軽くノックされる。

ぱっと顔を上げるとさっきの男性。

『あ、』

「あー...ありがとうございました、」

日本人ではないのか。
カタコトの日本語でぺこりとされる。

それならさっきの態度も少し納得いくような気もして、
わざわざありがとうと言いに来てくれたことも嬉しく感じた。

もしかして...

『韓国の方ですか？』

韓国語でそう言うとまた表情が固まってしまう目の前の人。

『えっと...韓国人の友達がいて、発音が似てたのでそうかなって...違ってたならごめんなさい。』

「あー、韓国人です。」

どこか腑に落ちないような、
表情が硬いままの男性との間に微妙な空気が流れる。

早くどこか行ってくれないかな...

「あ。」

そう言葉を発した彼が見ているのは私の手元にある
大きな図録。

「それ、僕も買ったんですけど、」

さっきまでは何だったんだってくらい
一気に目がキラキラし出した彼に思わず空いている
目の前の席を勧めてしまった私もどうかしている。