29、男前 ページ30
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栞は、震える手にギュッと力を込めた。
制服の上からでも細い指先の感触が伝わってくる。
私は、その空気を一旦思い切り吸い込むと
あ「とりあえず渡ろ！」
ピッポピッポと可愛く鳴る信号に目をやった。
そうだね、と静かに呟いた栞はまた私の手首を引っ張るようにとって歩き出した。
��…クレープ、��
場の空気を打ち破りたくてとりあえず発した言葉は少しも声にならなくて
周りの音にかき消されて行った。
栞は、聞こえなかったはずなのに、
「クレープ屋さんは今度食べ歩きしよ。今日はパンケーキ屋さんでいいよね？」
私の返事を聞く前に私の手を引いたまま
外からでも英字やアイアンの男前インテリアが目立つガラス貼りのかっこいいお店に
スタスタと足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ」
イケボで迎え入れてくれた店員さんは長身で見た目も男前。
黒いギンガムチェックのシャツに細身の白いパンツを穿いていて
スタイル良くないと絶対着れない。
その人の黒いカフェエプロンの腰あたりに交差した紐を見ながらついていく。
男の人のカフェエプロン姿って、なんかいいなぁなんて思った。
「こちらへどうぞ」
窓側の明るい２人席に向かって差し出された手と笑顔のキラキラに栞は、「ありがとう」と表情を少し緩めた。
開いたまま渡されたメニューに目を通すと、色んな種類のパンケーキの写真が並ぶ。
栞「…これは？リコッタチーズのやつ」
栞が指差した先に目をやると真っ白のクリームみたいなソースの海に溺れる分厚いふわふわそうなパンケーキ
あ「それがいいっ」
フルーツ系も大好きなんだけど、どっちかっていうとシンプルな方に惹かれちゃう。私は。
栞「ふふっ、迷ったらコレって書いてある」
栞がピコンと呼び出しベルを押すとすぐ店員さんが背筋を伸ばして歩いて来るのが見えた。
さっきとは…違う人だ。
そして、その人が目の前までやってきた時。
栞、あ「…あー！」
…うそでしょ？こんな所で会うなんて
あ「な、」
栞「中島くん…」
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作者名：ありぱん
| 作成日時：2017年2月3日 23時
