rainy day 2 (ページ9)

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59話 Y その人。ページ9

……その人は
訝しげな表情で、私を見つめると

『…立ち話もなんですから、掛けて下さい。』

そう言って、彼の部屋のソファに手をやった。

D「……ハナ、座ろうか？」

いつもとは、どこか違う
困った笑顔の彼を見て

ドキドキと、少しの不安が胸を叩いた。

ソファに腰掛けると、その人は
私の向かいに、ゆっくりと腰を下ろして

マ「僕は、こういった者です。」

そんな言葉と一緒に
テーブルの上に、1枚の名刺を差し出した…

Y「……YGエンターテイメント？」

マ「ご存知、無いですか？」

Y「……はい、申し訳ありません。」

マ「いえ結構ですよ、謝らないで下さい。」

トレーナーにデニムのラフな装いに反して
その人の丁寧な口調は、何処かよそ行きで

少しの疎外感を、私に感じさせた。

マ「大体のことはテソンさんから伺っています
…大変、でしたね？」

Y「……はい、ありがとう…ございます。」

……突然来て、名刺なんて
エンターテイメントって何の会社なんだろう？

マ「ハナさん？そうお呼びしますね。
…単刀直入に申しますと、ウチは芸能事務所です。」

Y「………？」

マ「そして彼は、その事務所に所属している
タレントの1人です、それもご存知ありませんでしたか？」

Y「………えっ？…あっ、は、はい…」

………芸能、事務所？

あぁ……そっかぁ……

…………そうだったんだ…。

その瞬間
深く被ったパーカーにマスク

『夢を売る』って彼の言葉が…
１つに繋がった気がした。

D「あのね、ハナ
別に隠すつもりは、無かったんだよ…」

Y「………なんか私、恥ずかしいですね
勝手にセールスマンとか決め付けちゃってて」

D「……し、信じられないでしょっ⁉
実はこれでも歌手なんだっビックリだろっww？」

わざとらしく戯ける彼の顔が
何だか少し、緊張してる。

Y「……あぁ、だから…」

D「……？」

Y「私ね、実はテソン君の鼻歌のファンだったの
たまに聞こえる鼻歌がすごく好きでっ」

いつも、コッソリ聞き耳立ててた。

Y「……だからあんなに、上手だったんだ…」

………街を歩けば

たまに流れる貴方の歌声に
今でも、思わず足を止めてしまうのは

もう殆ど私の癖で…

その度、あの鼻歌を思い出しては
静かに口ずさむけど

その小さな歌声は
もう直ぐにでも街の雑踏にかき消されてしまう。

……こんな風に
貴方との想い出も、静かに消えて行く日が

いつか、来るんだろうか…？