rainy day 2 (ページ25)

今日:12 hit、昨日:0 hit、合計:36,791 hit

75話 Y 親切と優しさの違い。ページ25

『……ハナ…起きてる？』

扉の向こうに、小さく聴こえたのは
……いつもと変わらない、彼の優しい、声だった。

D「……ハナ？……ごめんね、入るよ」

そんな言葉で
遠慮がちに開いた扉が

パタンって、軽い音を立てて閉まるのが分かった。

……一体、今何時なんだろう？

明かりを落とした、薄暗い部屋のベッドの中で
堅く目を閉じたままの私には

それすらも、分から無い。

……時計を見るのが怖かった
彼との約束の時間が、ゆっくりと過ぎて行くのを

ただ、ジッと身をひそめる様にして
待つ事しか、出来ないで居た……

こんな私を
彼はどんな気持ちで、待ち続けたんだろう？

2人分の食器に、一人ぼっちの彼の姿……
それを、頭に思い浮かべると

今すぐにでも、このベッドから立ち上がって
彼に全てを打ち明けてしまいたくなった

貴方を、こんなにも想ってる事
……だけどそれを、伝えちゃいけない事。

D「寝てるの？」

Y「………。」

D「………そっか、寝てるのか。」

ゆっくりと近付く、彼の足音が
ベッドの前で止まると

息を殺すような、小さな溜め息が
彼の口からこぼれたのが、分かった。

D「……もしかしたら
事故にあったかもなんて、心配しちゃったよ…」

「無事で、安心した。」

『心配しちゃったよ』
……なんて、言わないでよ

一層の事『酷い女』だって
私の事を、責め立ててくれれば良かったのに

『無事で、安心した』なんて

『どんなに待ったと思ってんだッ⁉』
そう、怒鳴り付けてくれれば

どれだけか、楽になれた筈なのに。

気が付けば溢れ出た涙が
次から次に、枕を冷たく濡らしてる…

D「……ねぇハナ、前に話した
俺の親切と優しさの違いの話、覚えてる？」

……うん、ちゃんと覚えてる。

「今日はね、その違いを君に、伝えたかったんだ。」

あの日から、ずっと気になってた……
その違いは何だったの？

D「意外に単純だけど、大事な事なんだよ？」

「俺は親切って
大勢の人の為だと思ってるんだけどね…」

「優しさはいつも
……大切な1人、だけの為に在るものだと思ってる。」

照れた様に、彼は小さく笑うと
大きな深呼吸をした。

D「……ねぇ、ハナ
俺の大切な1人が、君だって事、気付いてるんでしょ？」

「もし、起きてるなら
聞かなかった事にして、忘れてくれていい……」

「それが、ハナの出した答えなんだろ？」

「………だから、そんなに、泣かないでよ。」