72 引き留めるもの ページ23
「事故で記憶がなくなって……
やっぱり私は以前の『私』じゃなくて……
少しずつお互いの気持ちがズレてきてしまったんです。」
「でも、翔さんは━━
「もういいんです!終わったことです。
もう出ましょう？」
何か言おうとしていたカズさんの言葉を遮って
席を立って店の外へ出た。
春はまだ遠くて
冷たい風が心までも冷やすよう
ブルッと震えて
熱を奪われないように体を縮こませた時
不意に右手が温かくなって
ぎゅっと握り締められる。
「送るわ。」
一言だけ言ってカズさんは私の手をひいて歩き出した。
電車に乗ってる時も言葉もなく
だけど
手は繋がったまま
こんなふうに
きっとカズさんと『私』の関係って
言葉とかがなくても
手を繋いでいるような
どこか安心できる間柄だったんだろうな。
そんなことを考えていた。
駅からの道を歩いて
家が見えてくる頃
カズさんが急に立ち止まる
「A、オレさ……
しばらくお前とラーメン食いに行けなくなるんだわ。」
「……え？」
カズさんから急に出た言葉が理解出来ない。
「仕事でドイツ行くことになったから。
半年〜１年位かな？
まあ、あっという間だろ(笑)。」
そう言って無理矢理作ったような笑顔のカズさんを見たら
なんだか
もう
駄目だった。
「何泣いてるんだよ。
今生の別れじゃあるまいし(笑)。」
そうなんだよ
たか半年、１年だけなのに
なんで私は泣いてるの？
櫻井さんとの別れの時でさえ泣かなかったのに。
自分の涙の理由もわからず
ただ溢れるまま
止まることのない感情に流されていたら
カズさんがフワリと
優しく
私を包んでくれた。
「ほら、そうやってまたオレを困らせる。
もうオトナになりなさいよ。
オレだっていつまでも側にいられないんだからさ。」
ぬくもりが離れていく
離れないでほしいと思うのは
やっぱり私のワガママかな？
「やっぱお前は翔さんに守ってもらえよ。」
付け足したその言葉は
「いい子でいろよ」なんてふざけて言って
帰っていくカズさんが
引き留められないように
私にかけた足枷だったんだ。
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ゆいねごと(プロフ) - りこさん» ありがとうございます！最近忙しくてなかなか更新できませんが、少しずつでもがんばりますね！ (2018年3月23日 23時) (
レス) id: ef6567bd44 (このIDを非表示/違反報告)
りこ - 楽しんでよんでます！更新がんばってください!!応援してます！ (2018年3月22日 23時) (レス) id: bbbe789c97 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：やわらかなあたま | 作成日時：2018年2月5日 11時
