本当の恋人～ars parallel world～ (ページ34)

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34 沈黙の空間ページ34

「ああ、そうですよね。」

と慌ててブラックな色のカードをウェイターに渡してお会計を済ませた。

カードなんて使ったことがなかったし、ましてやこんな色のものは見たこともなくて

手が震えた。

レストランを出て

鼻唄を歌う櫻井さんの後を歩く

━━退院祝いだって言ってたから私はてっきり……

でも。

『私』の家はお金持ちだし、もしかしたら一般家庭とそういう金銭的な感覚は違うのかもしれない

奢ったとか奢られたとか

きっと気にとめることではないのかも。

気になるのは

使ったカードのお金。

今の私はもちろん

カズさんに聞いたところによると

事故前の『私』も働いていなかったってことは

『私の両親』が払うってこと。

━━それでいいのかな？━━

今の私とはかけ離れた金銭感覚に戸惑う

地下の駐車場に停めてあった車に乗って家に帰る途中も

櫻井さんはいつもと変わらない表情でおしゃべりしてくれていたけれど

ずっと引っ掛かりを持ったままの私は上の空で

車が家の前に到着して

櫻井さんが声をかけるまで

気がつかなかった。

「A、着いたよ？」

「……あっ、はい？」

「……。」

「……。」

沈黙が広がる。

「……Aさ、何か勘違いしてる？
『A』が言ってきたことだから。
『翔が独立して、ゆくゆくは自分の親の仕事を継いでもらえるようにサポートしたい』って。『だからデートのお金は出させて』って。」

「そうだったんですか……。」

「ほら？そんな不安そうな顔しないで。」

と櫻井さんは私を抱き寄せて

私の頭に手をまわして

そっと撫でてくれる。

「今俺が大変な状況で助けてもらっているけど、将来は俺がAのことを必ず幸せにするから。
俺たち婚約してるんだぜ？
お互いが支え合うのは当然だろ？」

━━そうだよね。私婚約者なんだから、私が信じなくてどうするの？━━

「はい、私、櫻井さんを一生懸命サポートします。」

櫻井さんの胸の中は

温かくて

私もぎゅっと抱き締めかえした。