4 異世界 ページ4
二宮さんが吐き捨てた言葉が耳に残った。
「親のすねかじりして、二宮さんが幼なじみで、櫻井さんは婚約者……？」
おおよそ信じられないその言葉を何度も反芻する。
じゃあ目覚めた時にいたのは
まぼろしなんかじゃなかったんだ……
……あのキスも……
思い出したら全身が熱くなった。
またドクターが来て
同じことを何度も聞かれて
「頭を強く打ったことによる記憶障害、いわゆる記憶喪失ですね。」
と言われた。
「Aちゃん、意識が戻って良かったわぁ、記憶がないなんて、きっと一時的なものよね？今はゆっくり休んで。
ほら、フルーツでもお食べなさいよ。」
それから来た、やたら派手できらびやかなおばさんは私の『母親』だと言う。
違う
記憶喪失なんかじゃない
まるで別の人間の中に『私』が入り込んでしまったような。
だって。
『私』のなかでは、櫻井さんも、二宮さんもテレビの中のキラキラしたアイドルの方だし。
このやたら広い特別室も、沢山の花やフルーツ篭の見舞い品も居心地が悪い。
「私、もっと貧乏だったはず……。」
つい声に出てしまって
その言葉をきいた『お母様』が絶句してる。
「まあ！Aちゃん、やっぱりまだ具合が悪いのねっ！先生にお薬いただかないとっ！」
とそわそわし始めた。
「い、いえ、大丈夫ですからっ!!」
と慌てて引き留める。
「と、ところで……その……
二宮さんと櫻井さんは……？」
「？？？……あぁ、カズ君と翔さんのこと？
カズ君もほら、大学院の研究があるし、翔さんも独立に向けてお仕事忙しいでしょ？
でも、Aちゃんが意識が戻るまで、かわるがわる来てくれていたのよ。
優しいわね、二人とも。」
当然のことのように言う『お母様』
それは
私が今まで生きてきた世界とは
全く違う場所だった。
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作者名：やわらかなあたま | 作成日時：2017年8月29日 16時
