85 ページ37
「秋乃さんのこと、好きみたいです」
好き。
わたしを。
――安室さん、が。
(…あああもう!)
終業後の事務作業はろくに進まないまま、
ひとり机に突っ伏した。
先日の言葉が頭を離れない。
あれ以来、ポアロには行けるはずもなく。安室さんとは一度も顔を合わせていない。
返事はいつでもいいと言っていたけれど。
一向にまとまらないのはわたしの頭で。
安室さんのことは、多分、好きだ。
あの時の言葉が嘘だとも思えない。
お付き合い、できるなら嬉しい…と思う。
なのにどうして素直に認められないかというと。おそらく、自信がないから。
こちらから見た彼は、なんでもこなせるすごい男性で。そんな人に果たして釣り合うのか。
もしかしたら実際付き合い出したら幻滅されるんじゃないかとか。
考え出したらキリがない。
はあ、と軽く息を吐き出す。
――わたし、こんなマイナス思考やったっけ。
いつもなら、持ち前のなんとかなる精神で解決できるのだが、恋愛となるとどうも上手くいかない。完全に迷子である。
もう今日は切り上げようと店の外に出ると、雨が少し降っていた。
(ああ、傘持ってないのに…)
小雨やしまあ早足で帰ろう、そう思いしっかり鍵を閉め、家路を急ぐ。
――そういえば、初めて会った日も雨やったなあ。
傘を借りて、紅茶買いに来てくれて、傘返しに行って。あのときコナンくんにも出会ったんやっけ。
いつも優しいけど、時折意地悪な顔も覗かせたりして。
(…もっと色んな表情、見てみたいな)
「――あなたのそういうところが好きなんだって」
また記憶がリフレインする。
思わず足を止めると、雨が少し強くなった。
(この悪い方にしか行かない気持ち、一緒に流れていけばいいのに)
さあさあと降り注ぐ粒を受けながら、そんなことを考えていた。
98人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「名探偵コナン」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
枝豆(プロフ) - ゆあななさん» コメントありがとうございます!そう言っていただけると励みになります、頑張りますね! (2018年5月24日 12時) (レス) id: 12c730cb67 (このIDを非表示/違反報告)
ゆあなな(プロフ) - いやもうほんと、すごく面白いです!!頑張ってください!! (2018年5月23日 22時) (レス) id: 6443c029d8 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:枝豆 | 作成日時:2018年5月15日 12時