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目の前に膝をついて覗きこむと、少し上を向いた目線とかち合う。
その瞳は涙のせいで余計に光を反射して、不謹慎だが綺麗だと思った。
目元を拭いながら声をかける。
彼女の性格的に、動かずにはいられなかった気持ちも分かる。
人の心配をしてしまうのも当たり前だ。
だが、自分が一般人だということは理解していてほしい。
訓練された人間とは能力も経験も違うのだ。
すると箍が外れたのか…涙が止まらなくなった背中を撫でながら、落ち着くのを待った。
「すみません…ほんとに」
人前で泣いてしまったことを恥じているのだろう、顔は真っ赤だ。
少し会話をすると ほろり、といつもの顔で笑う。
(ああ、その顔が見たかったんだ、)
「――やっぱり、あなたは笑っている方がいいですね」
思った時には口から言葉が滑り落ちていた。
ぽかんとしている顔を横目に、冷たい晩秋の風から隠すように上着をかけた。
帰りの車内はお互い黙ったまま。
しかし、それはどこか心地よい沈黙で。
スピーカーから流れてくる、ゆるやかな音楽をぼんやりと耳に入れながら走らせていると、気付けばマンションの前だった。
お礼を言う彼女の目元は、まだ少し赤くて。
なんとなく、触れたくなって頬に手を置いた。
「――、 安室さん…」
「? はい」
「…よくない、です。
そんなこと、されたら…、わたし、勘違いしてしまいます」
(…勘違い、か)
最後の方は消え入りそうな声だったが、確かにそう言った。
――してくれて構わないし、どこかでそう思ってほしかった、なんて。
俯いてしまった顔をよく見たくて、
彼女の髪をそっと耳にかけた。
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枝豆(プロフ) - ゆあななさん» コメントありがとうございます!そう言っていただけると励みになります、頑張りますね! (2018年5月24日 12時) (レス) id: 12c730cb67 (このIDを非表示/違反報告)
ゆあなな(プロフ) - いやもうほんと、すごく面白いです!!頑張ってください!! (2018年5月23日 22時) (レス) id: 6443c029d8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:枝豆 | 作成日時:2018年5月15日 12時