野坂くんと私の短編集【野坂悠馬】 (ページ5)

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5.静かな君に花束を【西蔭side】ページ5

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聞くと野坂さんの一目惚れで付き合ったらしい。

違うクラスなのにいきなり付き合いだしたから心底驚いた。

一緒にいる所を見たことが無い女だったからだ。

でもAさんも野坂さんを想っていると接していて分かったから俺はAさんを野坂さんの彼女として認めていた。

違うクラスでAさんのことを何も知らないうちに告ったので好みも思考も分からない、と初デートの相談されたこともあった。

野坂「僕から見たAはいつも笑っているんだ」

計画性がなく野坂さんらしくないとは思ったが初めての彼女に色々戸惑うことも色々あるだろうとこれからも支えることを誓った。

とりあえず俺が選択科目が彼女と被っている英語は学年で1番の成績だと伝えた。

野坂「じゃあ海外とか好きかな？」

西蔭「その可能性はありますね。ですが初デートなら無難に水族館や遊園地などがいいかと…」

野坂「なるほど…」

計画していた初デートの日に、

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Aさんは事故にあった。

あれから半年ずっと寝たままだ。

あの日から野坂さんの心は病んでしまって成績が落ちサッカーの腕も前より衰えてしまった。

今日もAさんの殺風景な病室にお花を飾ると野坂さんはいつものようにブツブツとAさんに向かって何かを呟いている。

医師は鬱病だと診断した。

野坂さんの脳内ではAは事故にあったことになっていないのかもしれない。

前よりやつれた体を労りたいが今この瞬間を邪魔すると何をしだすか分からない。

最悪今の状況を理解し、野坂さんは自ら命を絶ってしまうかもしれない。

見ていられなくなって俺は1人病室を出た。

野坂さんは今でも彼女は“ずっと笑っている子”だよ、と言っているが

選択科目の一緒だった英語の授業前、

友達と話している時もそんなに笑う人ではなかった。

どちらかと言うと落ち着いている雰囲気で元気でよく笑う子とはいえなかった。

野坂さんの前では笑うのか？と思ったが野坂さんの前でもそれは変わらなかった。

もしかすると付き合ってから日が浅かったから第一印象だけが野坂さんの中で今もずっと引き継がれているのかもしれない。

医師に聞くと、回復は絶望的らしい。

でもそれは野坂さんには伝えられない。

伝えたとしたら…

そんなの想像するまでもない。

西蔭「奇跡は起きない…か」

1人病室の扉に背を預けて項垂れる。

微かに野坂さんの喋り声が聞こえた。