野坂くんと私の短編集【野坂悠馬】 (ページ26)

今日:12 hit、昨日:2 hit、合計:8,009 hit

26.自称能天気2 ページ26

.

野坂「っ！！」

振り返った彼女の瞳は僕を映していなかった。

生気の無い瞳、ちゃんと見ていなかったから気づかなかったけど体もやせ細っている。

そう言えば最近朝食や昼食、夕食の時もAの姿を見ていなかった。

本人は「先に食べた」とか「マネージャーの仕事あるから後で食べるね」って言ってたけどもしかして…

『…』

彼女は何も発さない。

野坂「っ！Aちゃん、ちょっと見せて！」

彼女のもとに駆け寄り、腕を捲らせる。

野坂「やっぱり、そうだったんだね」

彼女のやせ細った腕には無数の赤い線が引いてあった。

無論、リスカと言うやつだ。

野坂「なんでこんなことしているのかな」

机を見ると、血の着いたカミソリが置いてある。

『…。』

野坂「…とりあえず手当するからそこのベットに座って」

『…やだ』

野坂「Aちゃん」

『ほっといて…』

野坂「A！」

『やめてってば！』

両手で顔を庇い立っていられずに床にへたり込む。

『お願いだから私に構わないでよ…』

野坂「会った時からずっと思っていたんだ。君はいつも笑顔だけどその笑顔の裏に何かを抱えているんじゃないかって…」

『…。』

野坂「何が君をそうさせるの…？君は君らしくいていいんだよ…？」

『でも、それじゃあ…誰も私を愛してくれない！私は愛されない！要らない！！要らない！！

要らないわっ！！！』

彼女はヤケを起こしたのかいきなり立ち、机のカミソリを掴んで振り上げる。

野坂「A！！」

すかさずその手を掴む。

『やだっ！お母さんが必要としてくれない私なんてっ！生きてる価値なんてないっ！！！』

野坂「！！」

その手から無理やりカミソリを奪い取り部屋の端に投げると、彼女は諦めたのか再びその場にへたり込む。

『返して、よ…』

彼女のすすり泣く声が部屋に響く。

野坂「…A、僕は実の母親に捨てられたんだ。」

『…え、』

君は僕を見上げる。

君の目線に合わせるようにしゃがむと、君と目が合う。

野坂「だから君の気持ちは分かるよ。僕は理解してあげられる」

『…』

野坂「ねぇA、僕が好きなAを傷つけないで…」

『…どうして、

どうして貴方が泣くの？』

野坂「……え？」