怪盗、歌姫、ミュージカル【怪盗キッド/黒羽快斗】

3 怪盗と歌姫の秘密の特訓2 ページ3

それにハッとすれば自分のセリフを歌い上げ返す。声が重なり、愛の囁きあいが進むごとにより感情が入っていく。
手を取り合い、至近距離で歌い合う。身長の関係で私が少しキッドを見上げる形だ。上から差す月明かりがキッドの瞳を妖艶に煌めかせ、役に入りながらも目が離せなかった。歌い合いは進み、キッドの右手が私の腰へ回される。更に近付く距離に、演技とは言えど鼓動が跳ねた。

キッドの雰囲気に飲まれているのがわかる。人を惹きつけてやまない彼だからこその空気だ。この時間が終わるのが勿体ない、と思いながらも最後のシーン。台本通りに瞳を閉じて、練習はここまでの為瞳をゆっくりと開き掛けるが。




さあ、と静かに風が吹いたと同時に唇に柔らかい感触が触れた。




驚いて目を見開けば、キッドの長い睫毛が目に入る。キッドと唇を重ねているのだと漸く頭が理解したところで、ゆっくりとキッドが離れた。伏せられていた瞳に再び月明かりが差し、少々熱を帯びた様子で煌めくのを私は固まって見ていた。



「…………………なんで」

「練習に付き合った報酬ですよ」
「報酬！？！？」
そう言って悪びれもなく目を細め笑うキッドに目を見開く。
「お、お礼が欲しいなら最初から言ってもらえれば次回までに用意してきたのに！？」
よりによってなんでキスなのだと抗議すればキッドは笑みを深めた。
「台本を読んだ時に決めてたんですよ、頂くならこれしかないでしょう？」
「なんでそうなるの！？！？！？っていうかまたこんな感じ！？」
さっきとはうって変わってキッドは上機嫌だ。更に呻くように抗議を重ねるが、何故かキッドはより上機嫌になっていった。
「他のどこの馬の骨ともわからない男に貴女の唇が奪われるなんて耐えられませんからね。回数を重ねられるならそれに越したことはないかと」
「いやっ、だから演技だから本気ですることないって最初に言ったでしょーーー！？！？」
「それはわかりませんよ。今みたいな事が本番であったらどうします？」
「ない！！！！春田さんはそんなことしないもん！！！キッドじゃないんだからね！？！？」
なんでそこで春田さんがそんなことをするかもしれない前提で話すのか全く分からなかった。そもそも自分がしておいて何を言うのか、キッドじゃあるまいしと捲し立てたその次の瞬間、腕を掴まれ引き寄せられる。片手は私の腰に回され、先程と同じようにキッドと至近距離で見つめ合う羽目になり私は再度固まった。

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