記憶１ ページ43
智は何も言わず、次の言葉を待った。
しかし、翔はそのまま自分の世界に戻ってしまったのか、何も言わなかった。
突然降り出した雨が、車の窓を音を立ててうつ。
遠くで鳴り始めた雷の音を聞いて、智に幼い頃の記憶が蘇った。
翔が６歳の時に、雅紀は生まれた。
翔「ただいま！」
雅紀が生まれてからというもの。
学校から帰宅すると、一目散に雅紀のところへ向かっていた。
翔「まぁさき。」
ベビーベッドを覗けば、よく笑う弟がいる。
歳が離れているせいか、お兄ちゃんになった喜びが大きく、自分から進んで世話をしていた。
母「お帰りなさい。翔？手洗ったの？」
優しく笑う母。
翔「あ、まだだった！」
慌てて手を洗いに行く翔。
今思えば、一般家庭によくある光景で、それは『普通』という名の幸せだったのだと思う。
時間さえあれば、智と翔は雅紀の相手をしていた。
智「雅紀のほっぺ、ぷにぷに〜。」
翔「ね、まさきのて、ちっちゃいねぇ。」
ただ、雅紀は身体が少し弱かった。
智「お母さん、雅紀またお熱？」
母「そうなの。だから、治るまで待っててね？」
翔「はぁい。」
赤ん坊の頃から、熱なんてしょっちゅうだしていたし、風邪で終わらず入院することも多々あった。
雅紀が２歳になった年、和也と潤が生まれた。
雅「かあしゃ！ぼーる！」
母「ん？雅紀はお母さんとボールで遊びたいの？」
雅「うん！」
母「ごめんね？お母さん、今和くんと潤くんにミルクあげているから、ちょっと待ってて？」
雅「やっ！」
智「良いよ、母さん。おいらが雅紀と遊ぶから。」
母「ごめんね、智。」
雅「…しゃとに？」
智「うん、雅紀。お庭でボールしようか？」
雅「うん！」
母「良かったね〜、雅紀。」
身体が弱い雅紀の世話と、生まれたばかりの双子の世話に、母は疲れた顔一つせず毎日笑っていた。
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作成日時：2013年1月31日 23時
