夜狐奇譚 (ページ2)

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宿にてページ2

「紺堂様！紺堂様！大丈夫でございますか！」

ドンドンと扉を叩かれる音で男は目を覚ました。

「……なんです？」

「ああ！良かった！なにやら寒い寒いとうなされているのが聞こえたのでなにかと思いましたよ。夏なのに珍しいことですねぇ」

「ええ、少し昔の夢を…」

「あら…そうなんですね…紺堂様、お支度ができたら一階へ下がってきてくださいねー朝飯ができていますよー」

女将がそう言って扉の前から足音が遠ざかっていった。
紺堂、偽名を使い、人間のふりをしてまでこの村にとどまったのは理由がある。

この村は怪しい。ほそぼそと人間界で小説家の真似事をして暮らしていたのもあり、小説のネタになると理由づけをしてこの村に来たが、本当の理由は旦那様の奥方の岩子様の気配がこの村からしたからだ。
烏に伝言を頼み、旦那様にも伝えた。旦那様のことだ。明日にでも哭倉村に来るだろう。

まずはこちらで情報を探るしかないが…僕の考えではどうにも村人達がくさい。
一律村の者皆が仮面を被ったかのように偽り、決して真意を見せないように何かを隠しているが、そんなことができるのだろうか。
村の人口は少ないとはいえ、５０人は超えているだろう。その皆が全員秘密を絶対に守るなんてことは…"特別ななにか"がなければ不可能だろう。

なんてただ部屋で考えていても何も進まない。実際に外に出てみなければ…
決心して僕は腰を上げた。