桜の季節 (ページ30)

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引っ込む_fin ページ30

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Aちゃんが笑ってる。
俺を見つけてこっちに向かって歩いてくる。

「晋太郎もお疲れ！」

「Aさんやん、観てたん？！」

「仕事終わらせて最後の漫才だけやけど、照明さんの横で」

どおりで。
Aちゃんが客席いたら見つけられる自信しかなかったし。

観てくれてたんや。

Aちゃんはモリシから俺に視線の向きを変えて

「今日は間に合ったわ。また噛んでたね」

と、笑った。

「…間に合ってへんわ。ていうかいつの話しとんねん！」

Aちゃんが当たり前のように昔の事を覚えてくれていた。

そんな事でちょっとだけ泣きそうな俺は
単独が終わってすぐの感極まった状態やからと言うことにしといてほしい。

「Aちゃん、あのさ」

そんな状態やからなんでも言えそうな気がする。

やっぱりまだ、Aちゃんが好き。

「ん？どしたんリリーくん」

「…飯いこうや、今度」

でも、今日はこのくらいにしたるわ。

と思ったら。

「ええ、まだAさんの事好きなん！？お前」

とでかいモリシの声が響き渡った。

「何言うて、お前…！」

と、言い返そうとした時に見えたAちゃんの顔。

「リリーくんみたいな女好き嫌やわ」

そんなこと言うのに、ちょっと赤くなってて

桜みたいな色やなあと
その見たことのないAちゃんの表情に

二人に言い返す言葉も引っ込むのだった。

おわり