響く ページ29
.
単独公演の日。
この日までスケジュールもパツパツで、寝ずにネタ合わせをしたと言っても過言ではない。
時間が取れない時はモリシと局のトイレで横並びで掛け合いの練習をしたくらい切羽の詰まり具合。
新ネタしかないし、不安と緊張は極限状態。
「リリーもうちょい合わせてええ？」
「おん」
モリシも結構不安と見える。
喫煙所に行く時間より合わせる時間のほうが多い。
それについてお互い気づいてはいるが口に出したら余計に不安になりそうで、気に留めないように時間ギリギリまでネタ合わせをした。
幕が上がる。
最初はいつものように漫才からスタートするこの舞台。
俺はこんな日も、前の列はいつもの子達やなとか考える余裕があるのかと驚いた。
逆にいつもの子達にホッとしてる面もある。
モリシも舞台に立てば水を得た魚のように生き生きとしていて、流石やなと思う。
舞台に立つ前までの不安はお客さんの笑い声で払拭された。
テレビもラジオも膨大に増えた最近。
今は大阪やなくて東京で過ごすことが多くなって
それと同じように、漫才をする仕事よりスタジオに座ってることが多くなって。
でもやっぱり好きや。漫才。
そんで、やっぱりAちゃんに観て欲しかった。
なんか。養成所の時と同じような事考えてんな。
…
あっという間に公演は終わり。
たくさんの笑い声が耳に焼き付いている。
大成功やったと思う。
幕が降りて客席が見えなくなった瞬間
モリシは俺を見て爆笑した
「わは、なんやねん最後、噛んだなあ！」
「うっさい、お前もつられて噛んだやんけ」
楽しいと早く次のボケしようとか
早く相方のツッコミ聞いてもらいたいとか
余計な事考えて噛んでしまう…って
誰から言われたんやっけ。
ほんと、その通り。
まだ鳴り止まない拍手に包まれながら
俺もモリシを見て笑った。
「リリーくん！」
その時、いるはずないのに
好きな人の声が袖から聞こえた。
幕の外の拍手も止んでいて
時間が止まったくらい静かに声だけが響いた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 131人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ぴぴ | 作成日時：2023年3月13日 14時
