歯車が回る ページ27
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二人でタクシーに乗り込んで、ようやくAちゃんと目線が合った。
やっぱり変わらずなAちゃん。
髪型とか化粧の感じとかは違うと思うけど。
「Aちゃんええの？仕事やったん違うん？」
「夜の企画が担当やから、それまでに戻れば大丈夫」
森ノ宮とNGKの移動はいつも大体15分くらい。
こんな短い時間にAちゃんに何を聞く？
何を話すにも足りないし、世間話なんてするには勿体なさすぎる。
「…売れたね、見取り図」
Aちゃんの声に、ぐるぐる考えていた脳が一旦動きを止める。
「お陰様で、まだまだやけど」
「いやすごいよ毎日テレビで観るし、拠点も東京やろ？」
「まあ…Aちゃんはなんで、こっちなん？」
Aちゃんはキョトンとしてから笑った。
「最後、東京行くからって会わなくなったもんね」
笑ってるけど、寂しそうな顔をしていて
聞いてよかったのか不安になった。
「そうやで、俺、Aちゃんと仕事するの目標にしてたのに」
「ほんま？それはごめん」
「いや、別に謝る事ちゃうけど…」
Aちゃんは笑いながら
「しばらくテレビやってたんやけど、比べ物にならないくらい忙しくてさ、全然気づかないフリしながらやってたら体壊しちゃって」
「えっ」
「ほんと偉そうにしてたのが恥ずかしいくらい、全然ダメやった。」
気丈で男よりも強くて
いい意味で強かなAちゃん
…というのは、やっぱり昔も今もAちゃんの事を何も知らない俺の勝手なイメージだ。
そんな事なってたなら、教えてくれ。
まあ教えようないし後からそんな事言ってもしょうがないけど。
あの時、あんな風に別れていなければ
Aちゃんの事を支えてあげるくらいできたはずだと少し後悔した。
「…ほんで今は森ノ宮に居るんや」
「そ、森ノ宮の企画の構成とか。今も楽しいよ。
若手がギラギラしてると、たまに、リリーくん思い出すんよね。」
「なんや、それ」
そんなふうに俺が笑ったタイミングで、タクシーはNGKに着いてしまった。
Aちゃんも降りるのかと思いきや
シートに座ったままの所を見るに、そのままとんぼ返りして森ノ宮に戻るみたいだ。
話すために送ってくれただけという事？
「じゃ、また、今度はご飯でも」
「ちょお待て、Aちゃん、タク代払う」
「教えたやろ、吉本は先輩が払うねん」
にこっと笑って、Aちゃんが残るタクシーはドアが閉まった。
止まっていた歯車がゆっくり回って全部が動き出すようなそんな気がした。
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作者名：ぴぴ | 作成日時：2023年3月13日 14時
