見惚れる ページ3
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「お疲れ様です」
にこっと笑ってベンチに座ってタバコを吸い始める女性。
「っ…お、っかれ様す…」
養成所の挨拶は基本「おはようございます」か「お疲れ様です」。
なんかいきなり業界らしいやんと思った。
じゃなくて、咽せて涙目な俺を気にしない彼女の姿。
否応無しに出てくる涙が図らずも光の屈折でキラキラしているのか、手に持ったまだ火のついたタバコの煙で視界がふわふわしてるのか
彼女に見惚れてしまった。
こんな女の子、クラスにいたっけ？
俺らのクラスじゃない子？
「リリー、吸わんやろもう」
「あ、おん、ハイ」
「いやいや吸わんわお前が吸ったやつなんて」
そうモリシが言うと
「ふふ」
そのやりとりを聞いていた彼女は控えめに声を漏らした。
小さい声ながらも俺もモリシも聞こえていて
彼女の方を二人で見ると
「二人はもうコンビ組んだん？」
と、聞いてきた。
絶対年下なのにタメ口なのも気にならないくらい
パッと明るい可愛い声やった。
「まだ組んでないけど…モリシは石井やろ？」
「あー多分そやな」
そう言うと、彼女は
「二人、多分組んだほうがええけどなあ」
にこーって笑って灰皿にタバコを押し付けて、すぐに喫煙所を出て行ってしまった。
いきなりの事と、クラスに少数いる女性ともあまり絡んでなかった俺ら。
二人で顔を見交わして
「めっちゃ可愛い、なに？ちゃうクラス？」
「…俺も思った」
俺も思ったなんて簡素な言葉やけど
本当に、大学にもいなかったあんなキレイな子。
タメ口が今になってじわじわ気になるけど。
「あんな子も芸人目指してんのやな」
というモリシの言葉に我に返った。
「うわ、今何分？」
「あかんあかん行かな！もう始まる！！」
喫煙所の扉を勢いよく開けて教室に走る
空気圧で外の空気も廊下にびゅうっと入って、どっかから飛んできた桜の花びらが一緒に着いてきていた。
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作者名：ぴぴ | 作成日時：2023年3月13日 14時
