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「……そういえば別れたの？」
意地悪な熱に散々身体をしならせたのはついさっきの事なのに。随分と前の様に感じる。
余韻なんてものは、私達の間に存在しない。
隣で横たわる彼に投げ付けたはずの言葉は、壁打ちと変わらない。華麗にスルーした深澤くんは枕の側に転がる小さな箱に手を伸ばした。
「…ウチ、室内禁煙なんですけど」
度々私の声を聞こえないフリをする事があるけれど。今回もまた私の声を聞こえないフリをして、深澤くんは更にジッポを手にした。
昼間と同じ様にフリントを何度かスライド。
使い古されたそれは、小さく火花が生じただけで、深澤くんの期待通りにはならない。
ざまあみろ。
また漏れた舌打ちに冷ややかな視線を投げつければ、深澤くんは煙草を吸うのは諦めたのか、肩をすくめたのち、私の肩を抱き寄せた。
そのまま男の人にしては細い、華奢な指が、既に冷たくなった肌を滑る。
「今回はまだ」
人差し指の腹がトン、と骨盤を撫でれば、喉の奥がギュ、と締まる感覚がした。
やけに楽しげな深澤くんのその言葉が、私が投げかけた問いに対する返事だと気付くのには暫しの時間を要した。……だって。
淡いグレーの色のシーツは、先程までの行為を彷彿とさせるシワを作っている。
深澤くんの指の動きに順応するかのように、そのシーツが再び深く波打つ。
「……じゃあ、どうして」
「んー、理由っている？」
「いるでしょ」
「久し振りにお前の事抱きたくなったから？」
『て事にしといてよ』
クスクスと笑い声。そこには、1ミリの本音も含まれていない。それくらいは分かる。
「……最悪」
「それはお前もでしょ」
「よく言うよ。……彼女いるくせに」
「別れた」
「いやさっきまだって言ったよね？」
『ホントあー言えばこー言うね、お前』少しだけ声色を硬くした深澤くんが、無理矢理私の身体を抱き起こす。
浅く漏れた息は、私のものか、深澤くんのものか。
「……Aの方が好きだよ」
…無理だ、と思った。
背後から貫かれた熱、耳元に寄せられる唇。
普段呼ばれる事のない呼び方。
再び熱を帯びた身体をしならせるには十分な理由だった。
狭いワンルーム。
小さく、でも確実に響く水音は、私の負けを証明していた。
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作者名：かお | 作成日時：2020年4月5日 17時
