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「何か二次会、俺の家になりそうなんだけど」
夜。
350缶をほぼ一息で開けた深澤くんはヘラリと笑った。
人の家のにズカズカ上がり込んで、冷蔵庫勝手に開けて、ちょっと高めの奴選んで飲むの、辞めて欲しい。こういうところ、性質悪い男だな、と思う。
ていうか飲むなら飲むで少しくらい味わって飲めよ。
私の不満げな視線に気付いたのか、気付いていないのか。深澤くんはちょっとだけ苦笑いを浮かべてそのまま隣に座っていた私の肩に顔を預ける。
こういう事すれば、許されるし逃げられると思っている。やっぱり性質の悪い男。
「…じゃあ帰んなきゃじゃん」
「んー」
「んーじゃなくて。どうせ向井くんとかでしょ？拗ねるよ」
向井くんは、私と深澤くんのひとつ年下の男の子。大学からこちらに来たと言う彼は、この土地では珍しい関西弁を操る、人懐っこい子だ。
飲み会ーーー…私達が所属するサークルの飲み会はお開きになった後、それぞれ仲の良いメンツで飲み直すのがいつものお決まりだった。
向井くんは深澤くんに懐いているし、飲み直す時だって大体毎回深澤くんの隣を陣取って顔を真っ赤にして笑っている。お酒弱いんだね、と言えばそんなことないです！ってちょっと頬を膨らませるから、可愛いなっていつも微笑ましく見ていた。
「拗ねさせときゃ良くね？」
預けられていた顔の重みが、フッと軽くなる。その重さは距離の近さにとって代わり、深澤くんは私の事を覗き込んでいた。
「何で？かわいそー………」
可哀想でしょ、まで言い切ることは深澤くんが許してくれなかった。吐き出そうとした言葉は、深澤くんの舌が絡めとる。少しとは言えアルコールを摂取した分、触れる熱はいつもよりあつい。
「…今日はお前と一緒にいたい気分」
キスとキスの狭間に深澤くんが囁く。
普段より低い声は、多分態とだし、意図的だ。
私がこの声に弱いってこと、深澤くんはきっと気付いている。
「…良いけど、後から責任私に押し付けないでね」
「ハイハイ」
『ってか言えるわけなくね？』とケラケラ笑うのを、視界が天井一色になるのを見つめながら感じる。
目の前にベッドがあるのに、私の肌を撫でるのは薄いラグマットの感触。気持ち程度に敷いているだけだから、殆どフローリングと変わらない。
痛いよ、という文句はやっぱりキスに溶ける。
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作者名：かお | 作成日時：2020年4月5日 17時
