どこかで星が降ったなら (ページ1)

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●性質の悪い戯れページ1

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舌打ちは聞き慣れていた。

食べたかった具のおにぎりが売り切れな時。
会計の端数分の小銭が丁度良く財布に入っていない時。
乗ろうとしていた各停の電車が1分の遅延を起こしていた時。

こういう時、決まって隣からは大きめの舌打ちが聞こえてくる。

確かに、舌打ちをしたくなる気持ちも分からなくはないけれど、別に舌打ちをする程でもない。と、思う。

「おい無視すんな」

舌打ちに無視も何もないでしょ。
そう言ってやりたいけど、言わない。

だって、どうせまた舌打ちをされるのがオチだから。

ーーー知っている。
彼は、短気だ。

「…何？」

「オイル切れた。…火ぃ貸して」

フリントを何回もスライドさせているな、とは気付いていた。

銀色の重そうなそれ。
好きなアーティストが使っていたモデルと同じものだって言っていた。興味本位で検索エンジンを叩けば、想像よりゼロがふたつみっつ多い値段が無機質に表示されたのを覚えている。

舌打ちの数と同じくらい、「金が無い」と言うのがこの人の口癖で。授業が終われば飛び出すようにバイトに向かうのをよく見送っているけれど、何処にお金が消えているのか。男の人のお金のかけ方はよく分からない。

私はこの人が持っているジッポの値段の10分の1にも満たないライターを無言で差し出した。

「ちげー」

「はぁ？」

受け取れば良いのに。
何故か不満そうな顔をするから。

今度は私が舌打ちをしたくなる。

ーーー気づいている。
多分、私もこの人と同じくらい短気なのだ。

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